むかしむかしあるところに
河川敷に寝っ転がるとか憧れだったんだよなー、なんて思いながら適当な場所に腰掛けた。流石に寝っ転がるのは、ブレザーが汚れるからしませんとも。残念ではあるけれど。...今度、汚れてもいい服で試そう。
河川敷にはもう花が咲き始めている。花屋のように立派なものではないけれど、結構好きだ。小さいけれど、確かな生命力を感じて、すごいな、なんて思ったり。
ほらほら、こんなところにも青色の花。確か、この花は...
「ワスレナグサ、だったけ」
「へぇー、この花、ワスレナグサっていうんだな」
「...へっ?」
隣から聞こえてきたその声に、思わずばっと振り向けば、なんということでしょう!目の前に!推しそっくりの顔面があるではないか!
「や、山本くん!?なんで!?」
「なんでって、走ってたらクラスメイトの姿見えたから」
そんな、そこにいたからなんてノリで言われても。ふつーにびっくりする。そもそも、普通クラスメイト、それも女子(親交も特にない)に話しかけてくるとは思わないじゃない?気まずさから視線を逸らした。
「山本くん、今日、部活は?」
「ん?今日はオフ!」
「おー、てことは自主練とか?」
「おう!特にやることもないしな!」
...いやぁー、真面目だ。私とは天地の差だ。
というか、何気に普通に会話できている自分を褒めたい。そりゃあ、彼が転入してから1ヶ月、前の席の女子として多少は会話することはあっても、必要最低限の会話しかしてこなかった。から、こうして学校も何も関係ないところで話すのは緊張する。
「この花、前いた場所でもよく見たから、ずっと名前気になってたんだ。なんかすっきりした。ありがとな!」
「そ、それはどーも」
にこやかに笑顔を浮かべる山本くんからすっと視線を落として、その青色を眺める。幼少期、今は亡き母から教わったその花言葉が、なぜかずっと忘れることなく脳にこびりついている。
「にしても、どーしてワスレナグサなんていうんだろうな?」
知ってるか?と言いたげにこちらを覗きこむ瞳。その瞳に一瞬たじろいだものの、私は彼に知識を教えることにした。
「確か、とある若い騎士が、恋人のために岸辺に咲く花を摘もうとするんだけど、誤って川に流されちゃうの」