溜め息は一日二回まで


 さすがは漫画の中で、クラスの人気者と称されていたことだけだと思う。











「山本ー、地歴教室一緒に行こうぜ!」

「おう!ちょっと待っててな」

 賑やかな様子で、次の授業場所に向かっていく彼とクラスメイト。次の授業は地歴。このクラスは、地理選択者も日本史選択者もいるため、必然的にこの時間は授業場所が異なってくるのだ。ちなみに、彼は地理、私は日本史選択である。日本史選択は教室で授業だから移動がなくて楽だな、と、どこかお気楽な気持ちで机に突っ伏した。





...ここ最近、彼のことばかり考えている。もちろん、恋愛感情とかそのような類のものではなく。

 転入してからまだ1週間ほどしか立っていないのに、既に彼はクラスの人気者という立場を築いていた。今日の移動教室の時もしかり、休憩時間中もしかり。いつも誰かに囲まれてい過ごしている。お昼は、教室で食べている様子を見たことがないから、きっと食堂。でもきっと、誰かしらと一緒にいるだろうし。

 クラスの人気者、そっくりな容姿に声。そして_既にプロ顔負けの野球の腕前。去年同じクラスだった野球部の男子が、彼のことをそう評していたのを、廊下ですれ違い様に耳にしてしまった。

 類似点があまりにも多すぎる。ここまで来ると、本当に彼はあの「山本武」なのではないかと思ってしまうのも無理ないだろう。いや、彼は同姓同名なのだから、彼も確かに山本武ではあるのだが、そういうことではなく。

 本当に、あの漫画の登場人物なんかじゃないかなって。なぜか、彼の転入と同日に、プツリと世界から消えてしまったあの漫画の。

 なんて言うんだっけ、逆トリップ?本当に次元を超えて、こちらの世界に来てしまったのではないかと、そう錯覚してしまいそうになる。

 でもでも、そんな非現実的なことが起こるのだろうか。既に、ひとつの漫画の存在が綺麗さっぱり消えてなくなっていることはひとまず置いておいて。

 だって、彼が住んでいるのは2次元で、私たちが住んでいるのは3次元で。どう考えたって、ひとつの次元の差があるし、それに、彼は空想の世界の住民なのだ。現実に現れるなんて、そんな、小説じゃあるまいし。





 授業を知らせるチャイムが鳴っても、気持ちを切り替えることなんて出来なくて、次から次へ、左耳から右耳へと内容が流れていく。とりあえず、板書だけはきちんとしておこうと、私はシャーペンを握りしめた。


...日本史、好きはずなんだけどなぁ。
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