世にもやさしい世界征服


 クラスメイトが一人増えたものの、今日の授業は全て滞りなく終わった。野球部見学してくる、と元気に教室を飛び出していった彼。

「廊下は走るなよー」

 そう担任に注意されても、全く気にしていないようだった。

 その様子に思わず目を細める。元気でいいこった。こちらはそれどころじゃないがな。

 今日は運良く部活が休みだ。だから、多少寄り道しても、いつもの帰りより遅くなることはないだろう。

 腕時計を見て、よし、と呟くと私はリュックサックを背負った。ひとまずの目的地は、学校最寄りの駅から家近くの駅の間にある大型ショッピングセンター。その中にある本屋で、中古本でも探しに行こう。あそこの本屋は、この辺りでは一番規模が大きいのだ。




...でも、お目当ての漫画は、全く見つからなかった。

 普通、連載が終わった漫画は1冊や2冊ぐらい、中古本コーナーに置かれているはずなのだ。でも、どこを探してもない。中古本コーナーにはないのかと、新品の方のコーナーを探しても、ない。検索機で調べても、1件もヒットしない。

 家に帰って、自室の漫画本スペースを探しても、その漫画だけまるでなかった。姉に聞いても、「何それ?」と聞かれる始末...これは、本格的におかしいぞ。

 インターネットで調べてみても、ついぞヒットすることがなかった。





_まるで、綺麗さっぱり存在が消えてしまったようだ。確かに、私には記憶があるのに、「家庭教師ヒットマンREBORN!」という漫画は、この世界からすっかりなくなってしまっていたのだ。

「(いくらなんでも、おかしいでしょ...)」

 世界からいっせいに、たったひとつの漫画が消えてしまうなんて。





 でも、と心の中で声が上がる。だとすれば、辻褄が合ってしまうのだ。クラスメイトが誰一人、転校生に何の反応を示していなかったこと。あの漫画の登場人物に酷似する彼に、何も言っていなかったことが。そして、一緒にそれを読んでいたはずの姉も、全く覚えていない様子だったことが。

 もしかして、みんなの記憶から「家庭教師ヒットマンREBORN!」の存在は綺麗さっぱり消えてしまっているのではないか。


 でも、だとすれば、どうして私だけが覚えているのだろうか。


 浴槽に浸かりながら、あれこれ考えてみても、答えなんて一向に見つかりそうになかった。
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