境界線で息をする
名字が同じ、そしてキャラデザ、性格、その他諸々私の好みのドンピシャだった彼は、まあ、私の推しってやつである。
だから、ただいま絶賛混乱中だ。
「山本は、部活何入るか決めたか?」
「野球部だな!前の高校でも野球部だったんだ!」
確かに野球部っぽいもんな、お前。このクラスに野球部いたっけ、いやいなかったわ。
なんて、一時間目終了後の小休憩、転校生を取り囲んで男子達は盛り上がっている。
転校して来たばかりだというのに、彼は持ち前の明るさを活かして既にクラス内の男子と打ち解けているようだった。文系クラスの男子は、人数の少なさからか結託が固い。彼も、その仲間入りをするのだろう。
「いやー、もう人気だね、山本くん。さすがイケメン」
「...そうだね」
友達の席近くに行くことで、私は自席、正しくは後ろの席を取り囲む男子から逃げていた。ただでさえ、人がたくさんいる場所は苦手なのだ、それもよりによって男子。あそこにいれる自信は、私にはない。
「にしても、いいなぁあかり。あんなイケメンと同じ名字って」
「...そうだね」
ポーっとしている友人の視線の先には、転校生。もしかして、もう既に恋煩い?この友人は、やや惚れっぽいところがある。去年も、それで失恋して大変だったというのに。
しばらくして、ドアから次の授業担の先生が入ってきたことにより、転校生の周りに群がっていた男子達は元の席に戻る。
私もその流れに乗るように席に戻って、教科書とノートを開いた。
教室内をぼーっと眺めながら、一人、思案する。みんな、不思議に思わないのだろうか。この転校生は、あまりにもあのキャラクターにそっくりすぎる。名前だけならまだ被っているのも頷ける、だって山本はよくある苗字だし、武だって探せばたくさんある名前だろう。でも、こんなにも容姿と声が似ていて、それに野球部だなんて。まさにあの「山本武」じゃないか。
まあ、リボーンの最終話が掲載されたのは、私達もまだ小2か小3くらいだったから、知らない人も多いかもしれないけど。でも、いくらなんでも、ここまで誰一人として、転校生に対して、何の反応を示さないのも、おかしな話じゃない?