結局ディーノさんが去ってから悶々とした気持ちは晴れず、かといって授業に戻る気も起きず。それに今戻ったら絶対目立つ。それだけは避けたい。私はモブ、のはずなのだ。
「あー...、どーしよっかなぁ...」
椅子にもたれかかると自然と溜め息が漏れた。確かに、ディーノさんの言っていた通り、私は彼ら主要キャラ達に嘘をついている。でもそれはモブでいるために必要だから仕方なくしているだけであって、別に、ねぇ?本好きなのを隠したいわけじゃないのだが。でも実際そうするしかなかったとしか言いようがないっていうか。どうしろっていうんだ。
「あー、考えるのめんどくさ...」
こういう考えることは、昔から苦手なんだ。
気が付けば、6時間目の授業開始を知らせるチャイムが鳴っていた。
「あ、ひかりちゃん!大丈夫?」
「あー、うん。大丈夫」
結局、6時間目もサボって放課後。教室に戻ると、心配そうな表情を浮かべて京子ちゃんが駆け寄って来た。授業をサボってしまっただけの身には申し訳なくて、返事も小さくなってしまう。
「保健室行ってるって聞いたけど、本当に大丈夫?」
「...保健室?」
...どういうことだ。保健室って。私、午後の授業時間中はずっと図書室にいたのに。だけど、京子ちゃんはキョトンと首を傾げると、また口を開いた。
「ディーノ先生が、5時間目の時、ひかりちゃんが体調悪いから保健室にいますーって言いに来たんだけど」
「...ディーノ先生が?」
いつ頃?と聞くと、授業が始まって半分立ったくらいと返された。
...おかしい。ディーノ先生といえば、5時間目の終わり頃会話したのだ。でも京子ちゃんの話を聞くと、ディーノさんが教室に行ったのは、図書室に行く前だろうし。なんで、私が保健室にいるなんて嘘付いたんだろう。
それに、今思えばどうしてディーノさんは私がいる場所をピンポイントで当てれたんだろう。確かに、私がよく図書室にいることは知ってたみたいだけど、そもそも私が5時間目サボっていることも、ディーノ先生は知らないはずなのに、どうして?
「_ちゃん、ひかりちゃん!」
「.......ハッ」
どうやら考え込んでしまったようだ。京子ちゃんの声で我に帰る。...さっきもこんなことあったなぁ。
「本当に大丈夫?さっきから顔色悪い気がするけど...?」
「あ、うん大丈夫。ちょっとボーッととしてただけだから」
本当に?と訝しむ様子の京子ちゃん。本当だってと、ヘラッと笑って返した。
「早く帰って、今日はしっかり休んでね」
「うん、そうするよ。ありがとね、京子ちゃん」
バイバイと手を振って、教室を出た。階段を降りたところで、それから思いっきり廊下を走った。「廊下は走るなよー」なんて先生の声は聞こえない。
自分のこと。ディーノさんのこと。グルグルと、モヤみたいなものが頭の中を回ってパンクしそうだった。