知らぬが仏



「つ、疲れた...」

 玄関前に着いて思い切り息を吐いた。それもそのはず、学校から家までノンストップで走って帰ってきたのだから。前世でも今世でも運動は得意でもなければ体力もないので、すぐ体力がなくなってしまう。もっと運動しよっかな。こないだの遅刻のこととかあるし。キツイのは嫌いだけど目立つことは避けたいし。それに走ったら少し気持ちもスッキリしたし。

 なんて考えながらも鞄から鍵を取り出して鍵穴に差し込む。ディーノさんのこととか色々思うことはあるけど、夕食を作りながらでも考えよう....とドアを開けたところで、玄関に置かれている靴を見て「げっ」と声が漏れた。嘘でしょ、まだ帰ってくる予定じゃなかったじゃん...!

「おかえりひかりちゃん、会いたかったわ!」
「…ただいま、そして2人もおかえりなさい」

 お母さん、お父さん。そう目の前の2人を呼ぶと、2人は力いっぱい抱きしめてきた。く、苦しい....!


★ ● ★ ● ★



 もう夕食は母親が作ってくれていたらしい。シーザーサラダに鶏の唐揚げにコーンスープ。どれも私の好きな食べ物ばかりだけど、気持ちは晴れない。

「どうしたの、2人とも。しばらく帰れそうにないって言ってたじゃん」

 ジト目になってしまうのは仕方がない。しかし、目の前に座る2人_今世での私の両親は、「思っていたより、仕事が早く終わったのよ」と既にビールの2缶目に手をつけている。

「帰るなら連絡してっていつも言ってるでしょ...」
「ごめんごめん、忘れてた!」

 テヘッ、なんて舌ペロしても許せないものは許せないし、いい歳した母親の舌ペロなんて見たくなかった。父親も、「かわいい〜」なんて言わないでほしい。母親がもっと調子に乗ってしまう。はぁーと大きく溜め息をついた。せっかくの唐揚げも美味しく感じない。

 普段仕事が忙しい両親は滅多に家に帰ってくることがない。それでも1年に数回は帰ってくるが、いかんせん毎回いつ帰るか全く連絡を寄越してくれないのだ。その度ちゃんと連絡はしろと言っているのに、未だかつて事前に連絡がきた試しがない。本当にやめてほしい。ただでさえ、両親と一緒にいる時は精神的に疲れるのに。心の準備をしたいのにさせてくれない両親。報連相はきちんとして欲しい。会社で習わなかったのかな、報連相。

「2人とも、報連相はしっかりしてよ...」
「え、なになに、ほうれん草?」
「ひかりちゃん、ほうれん草食べたいの?…もしかして貧血気味?大丈夫?」

「違うよ…報告・連絡・相談だよ…」

 そして2人は重度の天然だった。天然×2で私以外ツッコミがいない恐怖。両親には育ててくれている恩は感じているけど、正直、ずっと一緒にいると精神がゴリゴリ削れているのを感じる。どうしてここまで天然で今まで生きていけたのか疑問に思うレベル。会社でもちゃんとやっていけているのだろうか。まぁ忙しいってことは仕事出来ているってことなんだろうけど。...なぜ両親のことを子供の私が心配する羽目になっているのか。せめて天然は一人であってほしかった。

「そういえば、ひかりちゃん、修学旅行先イタリアになったのね。メール見たわ」
「イタリアかー。久しく行ってないな」
「そうね。もう15年以上前かしら。イタリアを飛び出したの」
「だなー!そっか、もうそんな前になるのか。俺たちが駆け落ちしたの」

「...ちょっと待って」

 ゴクリとコーンスープを飲み干した。今すごい爆弾発言しなかったか?

「...2人って駆け落ちだったの?」
「そうよ。言ってなかったかしら?」
「言ってなかったよ?!」

 ここに来てまさかの新事実。両親は駆け落ち婚だった。

「え、じゃあ2人ともイタリア人なの?!どう見ても日本人なのに?!」
「いやいや、私たち2人とも日本人よ。ただ、私たち2人の親の会社がイタリアに本社があるからね。ずっとイタリアで育ったのよ」
「...親の会社?」
「そう。あなたにとってはおじいちゃんおばあちゃんに当たるわね。イタリアで会社立ち上げてそのままずっと移住してるの」
「でもお互いの会社は仲が悪くてな、でもこう、ビビッときてしまって。母さんと結婚しようと思ったんだけど猛反対喰らったからイタリア飛び出て日本に来たってわけ」
「えぇぇ全く聞いてないし2人ともイタリア出身だったのも初めて知ったよ...」
「ごめんごめん、てっきり言ったもんだと」

 テヘッ、と今度は父親が舌ペロをするが、むしろ苛立ちがました気がする。今までよくそんな重要なこと言わなかったな?!どうりで今まで祖父母に会ったことないわけだ。駆け落ちだったらそりゃあ会えるわけがなかった。まさか両親が現代版ロミジュリみたいなことしてるなんて全く思ってもみなかった。

「せっかくだし色々イタリアの穴場スポット教えるわよ」
「ああうん...よろしく」

 未だに先程の新事実の衝撃が抜けきれない。そうか...イタリア...イタリアか...。

「(まさかボンゴレとかと関わりないよね...?)」

 国が国である。これがまだアメリカとかだったら気は楽だったけど、イタリアである。ボンゴレの本拠地である。マフィアの根城である。うわぁ、嫌な予感がプンプンするんだけど。いや、まさかねぇ...。

「(大丈夫私はモブ私はモブ...)」

 今までだって何も巻き込まれることなんてなかったんだ(今は若干巻き込まれているけど)。大丈夫...大丈夫だよね?
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