ゆるやかな振動を感じて瞼を開けた。電車の窓から見える景色は数年前まで見慣れたもので、いくつか変わったところもあるものの、基本的には数年前のまま変わらずだった。車内アナウンスが、そろそろ目的地に着くことを告げた。

「...よし」

 抱えていたリュックサックを背負うと、ドア前に立った。ゆるやかに電車はスピードを落とし、そして「並盛駅」に車体を停めた。プシューと開いたドアから足を踏み出して、そして私は久しぶりにこの並盛町に訪れていた。

 新幹線に乗って2時間、電車に乗り継いで1時間。計3時間をかけて、私はここ、並盛町の大地を踏みしめた。駅から出て確かあの銅像の前で集合だったはずだと見てみれば、既にその待ち合わせしていた人はやってきていた。

「こんにちは、奈々さん。お久しぶりです」
「なまえちゃん。お久しぶりね」

 数年前と変わらず、花が咲いたような笑顔を浮かべる奈々さんこと沢田奈々さんに私もつられて笑みを浮かべた。






 沢田さん一家には、幼少期から交流があった。近所に住んでいた沢田さん達は、なにかと私を気遣ってくれ、よくお菓子をくれたり昼食を食べに行くこともあった。私が中学校に入学してから話す機会も減ったけれど、大学進学か就職か、悩んでいた私に手を差し伸べてくれたのが奈々さんの夫、家光さんだった。家光さんは、何も理由を聞かずにおすすめの奨学金や保険など丁寧に教えてくれたし、もし就職するなら伝手があるから紹介するとも助言してくれた。多分家光さんは、薄々私の事情を勘づいていたと思うけれど、奈々さんに何も言わないでいてくれたのは助かった。これ以上、心優しい奈々さんに心配をかけてしまうのはどうしても嫌だった。

「あの、ご家族の皆さんはお元気ですか」
「ええ、皆元気よ!あ、なまえちゃんにはまだ言ってなかったわね!家族が増えたのよ!」

 駅から徒歩で沢田さんのお宅に向かう。もしかしたら道のりを忘れているかもしれないからと、奈々さんのお気遣いだった。奈々さんは、笑顔が溢れんばかりに語り出した。綱吉君_奈々さんの息子さんに、家庭教師を雇って居候していること、ビアンキさんという素敵な女性も暮らしていること、ランボ君やイーピンちゃん、フゥ太君という子供達も増えたこと。どうやら今、家光さんは外国にいるそうで家にはいないけれど、毎日がとても楽しいこと。正直、居候の人多くない?と思ってしまったことは否めない。それでも奈々さんがあまりにも楽しそうに話すから、本当にいいひと達なんだなぁと思った。

「あ、ついたわね。上がって上がって」
「はい、失礼します」

 沢田さんのお宅について、玄関を見ると、明らかに靴の数が増えていた。奈々さんのものから、綱吉君のもの、そして女性用のパンプスから明らかに子供用のものまで多種多様だ。居候の話は本当らしい。

 出されたスリッパを履いて、奈々さんの案内の元リビングに入れば、ソファに前見た時よりも成長した、けれども面影を残した顔がそこにあった。

「あ、綱吉君だ」
「えっ...なまえさん!?」

 テレビを眺めていたらしい彼は、私の顔を見るなり、ソファから飛び跳ねるように落っこちた。その反応を見るに、どうやら私が来ることは知らなかったらしい。教えていなかったんですかと奈々さんに問えば、その方が面白いでしょと茶目っ気たっぷりに言われた。





 ご飯を作るから待っててと言われ(手伝いますと言えば「お客さん様だからゆっくりしてて」と断られた)、今は綱吉君とこの数年であったことを話していた。ちなみに、今、居候人さん達は2階の部屋で遊んでいるらしい。綱吉君は、この一年で色々あったそうだ。その綱吉君の家庭教師さん、リボーンさんと言うらしいが、その人がなかなかにスパルタで沢山無茶ぶりもされるようだ。おかげで大変だよと愚痴る綱吉君だけど、その目はどこか楽しげで本当に毎日が充実しているようだ。癪だけど、アイツのおかけで友達もできたしと語る綱吉君。

「なまえさんはなにかありましたか」
「いやー、私は聞いても特に面白くないよ」

 この数年は、ただひたすらガムシャラだった。家光さんの紹介にもあった奨学金をとることに決め、大学に進学してからもバイト三昧、就職してからも奨学金返済のために仕事三昧で息つく暇もなかった。思い返せばあっという間、駆け抜けたなあと感慨深い。

 それからしばらく沈黙が続いて、奈々さんが料理する音を聞いていた。時折2階からなかなかにバイオレンスな音がするが大丈夫だろうか。香ばしい匂いに思わずお腹が鳴る。綱吉君と顔を見合わせて笑った。

「そういえば、なまえさんの時にも風紀委員ってあったんですか」
「風紀委員?あったけど...」

 綱吉君は、もう中学2年生らしい。私も通っていた並盛中学校に通っているので、後輩にあたる。中学生と言えば、多分あの子も今中学生だよな、中3かな?と一人思考に陥っていると、綱吉君は「今の風紀委員なんですけど...」となにか言いずらそうだった。

「今の風紀委員なんですけど、えっと...委員長が雲雀さんって人なんですけど、結構変わっていて」
「雲雀...?」

 今まさに考えていたその人物の名前が出て、胸がドクンと音を立てて鳴った。





瞼に焼き付いた稲妻



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