「おーい、なまえ。顔暗いぞどうした」
「あー...、お盆に地元に帰らないといけなくて」

 どうして?とでも言いたげな表情のその友人に、両親が厳しいとか何とかありきたりな理由で誤魔化せば、納得したのか「私も嫌だな〜」と返された。そこから家族の話に発展しそうなのを何とか 別の話題を提供することで逸らす。悲しいかな、もうすっかり身についてしまったことだ。

「でも、私、なまえの家族の話聞いてみたいな」

 あまり話してくれないからさ、と会話終わりに告げられ、全然面白くないからいいよとまた笑うことで誤魔化した。これもここ数年で身についたことだ。



 本当に、家族の話なんかできるもんじゃない。



 こちらに来てどれくらい経っただろうか。少なくとも、5年は経っているはず。大学進学をきっかけに家を飛び出るように出て、それから一度も帰っていなかった地元、並盛町にこの夏の盆、急遽帰る羽目になった。本当はこの盆も帰る予定なんてなかったのだけれど、地元にいた頃よくお世話になったご家族様からの誘いが来て断れきれなかったのだ。きっと事情を話せば、無理して帰らなくていいよと言われただろうけれど、そこまで気遣ってもらうのは申し訳ないし、せっかくのお誘いを無下にもしたくなかった。それに、私もその人達に久しぶりに会いたい気持ちもあったから。

 それでも地元に帰る日が近付く度、きりきりと胃が痛むのを感じる。仕事もあまり集中できないし、今からでも断りの電話を入れてしまいたいほどだ。でも、もう新幹線のチケットは取ってしまったし、お金は無駄にしたくない。結局免れないのかと、友人にはバレないようこっそり溜め息をついた。

「(さっさと行って、さっさと帰ろ...)」

 そのご家族様に会ってお話してお土産を渡したら、すぐ帰ってしまおう、そうしよう。大丈夫大丈夫、要は父親にさえ会わなければいいのだ。それぐらいなら私にもできるはず。ああ、でもあの子には会いたいな、あの子。

 最後に会った時はまだ自分より一回りも小さかったあの男の子は今はどれくらい大きくなったんだろう。それだけは、ちょっと見たいかもなんて、叶わない思いを抱いて。だって、私は彼との約束を破ってしまったのだから。今更どの面下げて、彼に、あの子に会いに行けと言うのだ。





吐き出された大きな溜息はまるで魂が吸い取られているようだ



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