備忘録 4


「お父さーん、お母さんが呼んでるよー」

「Sei sicuro di venire qui?」

「お父さん?」

ひょっこりドアから頭を出して少女が男性_少女の父親を呼びに行くと、彼は電話中だった。少女が知らない言語で、楽しげに会話している。まだまだ会話したい素振りを見せたものの、男性は少女をチラリと見ると、ひとまず電話相手との会話を切り上げた。

「Per ora, parliamo di nuovo la prossima volta」

そして、父親は受話器をおろした。少女は父親の元に駆けつける。

「ねえ、お父さん。今のって何語?」

「あー、イタリア語だ」

「お父さん、イタリア語話せるの!?すごーい!」

「...ああ、ありがとな」

父親は少女の頭をわしゃわしゃと撫でた。少女には見えなかったが、その男性の表情はどこか複雑そうだった。

「ねぇねぇ、誰と電話してたの?」

「...俺の、昔からの知り合いだ。まあ、兄貴みたいなもんだよ」

「そうなんだ、仲良しなんだね、その人と」

だって、お父さん、とっても楽しそうだったもん!

少女のその言葉に、男性は「まあな」と返すと、少女を肩車した。少女から歓声が上がる。

「...お父さんのその友達がな、お前にも会いたいって言っているんだが、お前はどう思う?」

男性は重々しげに口を開いた。だが、少女はそんな父親の様子には気付くことはなかった。

「会いたい!」

「...そっか。ならきっとアイツも喜ぶよ」

俺も、自慢の娘を紹介できて嬉しいよ。

男性は、もう父親の顔に戻っていた。








(_これは、忘れ去られた、遠い昔のこと)












かつての父親は、思えば友人がたくさんいた。お店にはよく、父親の友人だという人が来ていた。その中には、父親の前の仕事、前の職場の人達も含まれている。

その人たちは、よく私に父親のことを聞かせてくれた。父親が店を開く前、前の職場ではどんな様子だったのか、それはそれは自慢げに。どうやら父親は、結構上の役職だったらしい。自慢の上司だと聞いて、自分のことのように嬉しかったことを覚えている。

それでも、どの人に聞いても、父親が何の仕事をしていたかは絶対に教えてくれなかった。








前の職場で
・父親は高い役職だったらしい
・元仕事仲間からは慕われている様子
・危険が伴う仕事だった?


・父親の元仕事仲間の服装は、季節問わずいつも長袖。肌の露出が少ない。




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