13ー1
「あー、くっそ」
ジンジンと痛む頬を保冷剤をあてて冷やす。本当はもっと丁寧に冷やさないといけないが、まずは冷やすことが肝心だ。
口内からはまだ血の味がする。ベロリと舌で口内を舐め回すと、瑞穂は手で唇を拭った。...まだ、血がついてしまっている。
久々に大人数で食卓を囲った帰り。暖かいその場所は、瑞穂に昔のことを思い出させるのには十分だった。
だが、幸せはそう長くは続かないらしい。家に、普段はついていない明かりがついており、嫌な予感がした。そして、嫌な予感ほど的中するのものである。
「...ただいま」
「おかえり、瑞穂。これは一体どういうことだ?」
一応、帰りの挨拶をすれば、できることならばもう二度と顔も見たくない人物からのお出迎え。
「なんだっていいでしょ、お父さん」
本当は、父親だなんて一欠片も思っていないがな。そんな皮肉も込めて、嫌ったらしくそう目の前の人物を呼んでみれば、案の定、拳が近付いてくるのが見えた。
それからは、いつも通り。相手の気がすむままサンドバックになり、やっと解放されたところで自分で怪我の手当てをする。もう慣れっこになってしまっていることに悲しくなる。
瑞穂が彼_和田原修治、「今」の父親に会うのは雲雀に病院送りにされた後、退院して以来である。その時も入院するとは何事かと理不尽な理由で顔面を殴られた。
今回は、仕事がある程度区切りがついたようでイタリアから帰国していたようである。それが、よりによって今日。沢田家に行った今日だというのだから、相変わらず天は味方してくれないらしい。いや、それは彼女が生まれ変わってからか。
「今」の父親が、瑞穂のことをよく思っていないのは長年の付き合いで嫌という程よく知っている。家に帰ってくる度、憂さ晴らしに殴ってくるのだ。それでも、今はまだ割りとマシな方ではある。昔は、毎回違う女性を連れてきては、その女も一緒になって攻撃してきたからだ。
「今」の母親の顔は知らない。どうせ、彼の本性を知ってすぐ逃げ出したのだろう。娘を連れていく余裕がなかったのか、愛情など最初からなかったのか。いずれにしても、見捨てられたという感覚は抜けることがない。生まれてこの方、音沙汰ひとつもしなければ誰だってそう感じるはずだ。
「あーあ、別にこういうのいらないんだけど」
転生特典、てやつ?自虐気味に吐いた言葉に、答える者はいなかった。