11ー3
「沢田君、確かこの子ってファミリー試験の時にいたよね...?」
「うん...最近よく来るんだ」
瑞穂が既視感の原因を尋ねれば、思っていた通りの回答が綱吉から返ってきた。入ファミリー試験でその見た目に反して物騒なミサイルを打ったその子供、ランボは、今はハルの腕の中で抱かれている。
「それより、早く答え教えろよ」
獄寺は急かすように瑞穂を呼んだ。突然の来訪者により、結局答えを見せていないままだった。気を取り直して、答えを言おうとして、窓から聞こえてきた大きな自転車のベルの音に掻き消される。自転車が家の前でブレーキをかけた音がした。
すると、ハルがハッと何かを思い出したようにその場に立ち上がった。
「そういえば、ハル、この問題解を解けそうな大人の女性を呼んできていたんです!」
「え、そうなの?」
綱吉は聞き返した。はい、とハルは続ける。
「この前、一緒におでん食べたんですけど、すっごい美人で料理が趣味なんですよ〜!」
_ここまで聞くと、百人が百人、その女性を完璧だと思うだろう。実際、その時の獄寺と綱吉は、どんな女性だろうと楽しみにしていた。
が、ハルはその女性の名前を呟いた。
「ビアンキさんって言うんですけど」
刹那、獄寺は部屋を飛び出していた。その時間、わずかコンマ1秒。何事、と瑞穂は獄寺が飛び出た先を見やる。綱吉もどこか青ざめた表情を浮かべていた。
「えっと...ビアンキさんっていうのは...?」
瑞穂は恐る恐る綱吉に尋ねた。ハルは楽しげにその女性について語っており、山本もそれを笑顔で聞いている。ほのぼのした会話の一方で、瑞穂はその名前を聞いた時の獄寺の慌てっぷりを見ただけに恐れの方が大きい。あの獄寺が、だ。
綱吉は、ふぅ、と深く息を吐くと重々しげに口を開いた。
「...ビアンキっていうのは、獄寺君のお姉さんで...作るもの全て毒入りの料理にしちゃうポイズンクッキングの持ち主なんだ」
「ポ?ポイズンクッキング?」
聞き慣れない単語が聞こえてきて瑞穂は思わず聞き返した。とても禍々しい響きがするのは気のせいなのだろうか。
綱吉は、遠い目をしながら、また重い口を開けた。
「獄寺君、そのビアンキの料理を小さい頃から食べてきて...今は見るだけで倒れちゃうらしい」
ポイズンクッキングやら、見るだけで倒れるやら。ツッコミどころが多すぎて理解が追い付かない。瑞穂がまたまた聞き返そうとしたところで、階下から獄寺の悲鳴が聞こえてきた。