10ー2
綱吉が2人からおにぎりを取り上げた瞬間、パンッとどこからか聞こえてくる銃声。瑞穂が思わず窓の外を見ると、キラリと光る銃口が一瞬見えた気がした。気がしたというのは、それは見えたとしても本当に一瞬だったからだ。知らなければ、気の所為だと思ってしまうほど。
「死ぬ気でおにぎりを食べる!」
いつの間にかパンツ姿になっていた綱吉はそう叫ぶやいなや、手当り次第おにぎりを食べ出した。京子や瑞穂の持っていたおにぎりも「うまい!」と食べている。その勢いは止まらず、周りの女子や男子が持っていたおにぎりも奪って食べ始めた。
「こいつ、無差別に食いまくる気だ!」
「誰か止めろー!」
教室内は蜂の巣をつついた騒ぎになった。阿鼻叫喚という言葉がピッタリである。
そんな中、瑞穂は一人胸を撫で下ろしていた。綱吉がお腹をこわさないか心配ではあるが、あの状態ならきっと大丈夫なのだろう。さっきの銃声はきっとリボーンのものだ。彼の銃の腕前はよく知っている。
とりあえず、おにぎりを食べなくてすんだことに瑞穂は安堵した。最近、やけに命の危機にあうことはひとまず目をつむっておくことにする。
なお、今回の騒動により、綱吉に対する周囲の評価が変わったとか変わっていないとか。
▽
「瑞穂ちゃん、そろそろ夏休みだよね?」
「あ、はい。そうです」
その日の放課後。いつも通り、レストランにバイトに来ていた瑞穂は、店長に呼び出されていた。
「提案なんだけど、長期休業中は、勤務時間を昼にしない?」
「えっと、昼ですか」
瑞穂は基本学校終わりにバイトをしているため、大抵勤務時間は夜である。
「そう、昼。夜は暗くて危ないだろうし、昼の方がお客さんも少ないからまだ楽だと思うよ」
「昼...そうですね」
確かに、昼の方が夜も早く寝られたりと楽かもしれない。じゃあお言葉に甘えて昼にします、そう返事をすると、店長は相好を崩した。
彼も彼なりに瑞穂のことを心配しているのだ。このレストランの常連である和田原修治の娘の瑞穂が、急にここでバイトがしたいとお願いしてきた時には本当に驚いたものだが、昔からの付き合いのよしみで結局雇ってしまっている。実際のところ、瑞穂はかなり優秀なためとても助かっているのだが。
入院したって聞いた時は本当に肝が冷えたなぁ。数週間前のことを思い出して、彼は溜め息をついた。まだ子供のはずの瑞穂が、時折どこか遠くに行ってしまいそうで怖くなる。