10ー1
「今日の調理実習楽しみだねー!」
「そうだねー、おにぎりだったけ?」
雑談しながら、瑞穂は京子と黒川花と共に家庭科室まで向かっていた。今日の家庭科の授業は調理実習。おにぎりという、初心者向けの内容だった。
「二人は具、何入れるか決めた?」
「私はシャケにするよ。花は?」
「私は梅干しー、瑞穂はどうすんの?」
「私は昆布にしようかなって」
全員違うね、出来たら交換しようね。そう約束して、3人はまた笑った。
いつも通りの、穏やかな日常の一幕だった。
▽
「おにぎり、男子にくれてやるー!」
「オー!」と男子達の歓声が溢れた。男子にもお裾分けすることになったのだ。
「はい、瑞穂ちゃんにもあげる」
「わー!ありがとう、京子ちゃん!...ってこれ」
_表面から煙が出ているように見えるんだけど、色もなんか紫色に見えるんだけど。そして虫らしきものもが見えるんだけど。私、京子ちゃんと一緒におにぎり作ったけど、こんな見た目じゃなかったはずなんだけど...。
もしかして夢を見ているのではと頬をつねるもちゃんと痛みはやってきた。それでも目の前の光景を信じることなど瑞穂には出来なかった。最近疲れがたまっているからこんな幻覚を見てしまうのではないかと、現実逃避をすることしかできなかった。
「あ、もしかして瑞穂ちゃんもシャケ嫌いだった?」
「へっ?いやいやいや、そんなことないよ!」
眉を下げてシュンとした表情の京子を見て、瑞穂は全力で否定した。シャケは好きだ。よく夜食で食べたおにぎりの具もシャケだった。だが、このおにぎりの見た目から、食べるのは少し、いやだいぶ抵抗がある。
チラリと前を見渡すと、同じように京子からおにぎりをもらった硬直状態の綱吉が見えた。パチリと目が合う。
「(どーしよう和田原さん!京子ちゃんを悲しませたくないけど、これ食べたら俺たち絶対死んじゃうよ!)」
「(そう、だよね。これ幻覚じゃないよね。ごめん、私ももう何も分からない)」
アイコンタクトだけで言葉を交わす。背筋には夏の暑さだけではない汗もダラダラと流れている。毒物を勧められても、相手にそれを悟らせないように断る方法など、瑞穂も知らない。
「わー、美味しそうだなー」
わざとらしく呟いて、瑞穂は助けを求めるように辺りを見渡した。だが、そこには京子からおにぎりをもらおうとする獄寺と山本の姿。
「食べたら死ぬんだぞー!」
綱吉は、思わず叫んで2人からおにぎりを取りあげた。