8−2


「和田原!」

6時間目が終わって、校舎から出ようと帰る間際、山本から呼び止められた。振り返ると、走ってきたのか息が切れている。

「どうしたの、骨折してるんだから安静にしないと」

「分かってるけど、今日のうちに和田原に謝っておきたくて」

彼は、瑞穂に向かって頭を下げた。

「ごめん、オレ。和田原が練習休めって言ってくれたの聞かなくて、怪我して」

本当にバカだよな。彼は笑ってこそいるが、無理していることがバレバレだ。

はぁ、と瑞穂が息を吐いた。別に、自分に謝ってもらいたい訳でもないし、何もしなかった自分に謝るのも違う。それよりも、彼は他に謝るべき人がいるだろう。

「別に、私に謝ることじゃないよ。私がいくら言っても、山本がのことだから無理しただろうし、むしろ私が山本をとめられなかったことを謝るべきだ」

「いや、それは」

「違うって言っても非はあるよ。もっと無理を言ってでも、とめるべきだった。山本が悩んでるの、一番近くで見てたのに全然気付けなくて」

溢れ出る言葉は止まることを知らない。瑞穂もこの一日で、色々と思うところがあったのだ。例えば、自ら命を絶とうとした山本の行為に。

「私なんかより、山本は謝る人がいるでしょ。野球部の友達とか。皆、山本のこと、本当に心配していたよ」

全員、あの時屋上にいたことを指摘すると、彼は気まずように目を泳がした。瑞穂は続ける。彼女がかつてしてしまった、後悔の念も込めて。

「それに、山本のお父さん。残された方の気持ち、考えたことある?子供が親より先に死ぬなんて、一番の親不孝だ。特に、山本のお父さん。男手ひとつで大切に育ててくれたんでしょ?」

だったらだめだ。瑞穂は力強く言い切った。

「どんな理由があるにしろ、自分から死ぬなんて絶対ダメだよ。生きてさえいればなんだってできるんだから。野球だって、怪我さえ直ればまたできるし。それに、生きたくても理不尽に殺されて、後悔があるまま、やりたいこともできないまま死んじゃう人もいるんだから」

本当に、ごめんなさい。勝手に死んで、悲しませて。私、2人にまだ何も返せていなかったのに。

「だから、自分から死のうなんてこれから先、思っても絶対しないで。生きている限り、後悔なんていくらでも消せる。未来だって、いくらでも変えられる。どんな人間にもなれる。親が、友人が、周囲の環境がどうであれ、なんにだって私達はなれるんだから」



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -