7−3


欠伸を噛み殺しながら、瑞穂は教室に登校した。やはり、久しぶりのバイトは負担になる。

「あれ、まだ来ていないんだ」

まだ、前の席の、その男子は来ていなかった。いつも野球部の朝練のため、大抵彼は瑞穂より早く着席している。

珍しいこともあるもんだと思いながらも、瑞穂は席につくとそのまま机に突っ伏した。さすがに眠気が限界を迎えていた。SHRが始まるまで間もないが、少しでも睡眠時間を確保しようと、瑞穂の意識は落ちていった。





_夢を、見た。とても懐かしい夢。

「瑞穂、」

記憶の中の彼は、優しく呼びかけた。

「俺達より、絶対早く死ぬんじゃないぞ」

ごめんなさい、

「約束してくれるか?」

約束、したのに。

「そっか。お前の父親になれて、本当によかった」

そう言ってくれたのに。私は、とんだ親不孝者だ。












「_ちゃん、瑞穂ちゃん!」

「... ん、」

体を揺すられて、瑞穂は目を覚ました。随分昔の夢を見ていた気がする。目をこすると、京子がそこに立っていた。何やら切羽詰まった表情を浮かべている。

「どうしたの、京子ちゃ「山本君が、屋上から飛びおりちゃう!」

「え、え、どうしたの京子ちゃん」

「だから、山本君が屋上から飛びおりちゃうかもしれないの!」

昨日、居残って練習してムチャして骨折したらしくて。

その声は、もう瑞穂には届いていなかった。

「あんの、馬鹿野郎!」

音を立てて瑞穂は椅子から立ち上がると、とび出るように教室から出た。出る間際、京子にお礼を言うのも忘れない。

呆気にとられた京子の表情になんて気が付かず、瑞穂は廊下を全力で走った。今、上靴ではなくスパイクを履いていたら、もっと速く走れるのに。今は僅かな差でさえ惜しかった。

屋上までの階段を一段とばしで登って、息を切らしながら屋上に辿り着いた時は、もう既にそこは人でいっぱいだった。

「山本は?」

手当り次第、近くにいた男子に話しかける。あそこ、と指差しされた方を見ると、フェンスにもたれかかり、腕を包帯で固定した山本が、そこにはいた。

教えてくれた男子にお礼を言って、人の間を縫って、瑞穂は前に進む。だが、人の多さから中々進むことができず、歯がゆく思う。

すぐそこにいるのに、何もすることができない無力感。

「まさか、本気?」

群衆の一人が、山本に向けて叫んだ。



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