7−1


彼が、最近悩んでいることを知っていた。

「なあ、和田原。昼休憩、キャッチボール付き合ってくんね?」

「うん、いいけど。練習やりすぎじゃない?」

「大丈夫だって」

それに、このままじゃスタメン落ちだ。

そうぽつりとこぼされた言葉に、瑞穂は何も答えられなかった。

最近、いくら練習しても打率落ちっぱなし、守備は乱れまくり。一体どうすればいいのか。数日前、悩ましげな表情を浮かべた山本から相談された。同じような経験がある身としては、山本がこのまま無理をして怪我をしてしまうのではないかと心配だった。野球において、圧倒的センスを持つ彼は、所謂天才というやつなのだろう。だからこそ、思うようにプレーできない今の状況はおそらく彼にとって初めてのことで、スランプを脱出しようと足掻けば足掻くほど、抜け出せなくなっているように見えた。

「練習はいいけど、ちゃんと休みはとること」

だから、瑞穂は山本にそう答えた。一つのことに夢中になっていると、途端に視界は狭まり、他のことに目がいかなくなる。その結果、できていたことも出来なくなり、より状況が悪化してしまう。

でも、今もこうしてキャッチボールをしに行くのだから、きっと「私」の言葉は彼には届いていない。そのことが、どうしようもなく歯がゆかった。





いくらスランプであるとはいえ、彼に野球をやらせてみればそのセンスは圧倒的で、ホームランを量産する活躍ぶり。

今日の体育は、男子は野球で女子はサッカー。試合がない女子は、山本の活躍に歓声を飛ばしている。

だが、瑞穂は黙ってその様子を眺めていた。笑顔こそ見せているものの、山本が本当に楽しく野球をやっているには見えなかった。以前見た時は、もっと楽しそうな表情をしていたように思えたのだが。

知らず知らずのうちに険しい表情になる瑞穂。そんな彼女に近付く2人の影。

「瑞穂ちゃん、どうしたの?」

「あ、京子ちゃんに花ちゃん」

それは、笹川京子と黒川花の姿だった。瑞穂の横に2人は座ると、黒川花は呆れたような声を出した。

「あ、じゃないわよ。あんた、今めちゃくちゃ顔険しかったわよ」

嘘、と眉間をさわってみればら確かに皺がよっていた。

「前から思ってたんだけどさ、瑞穂って山本のこと好きなの?」

「...ん?」

「あ、それそれ。私も気になってた!」

京子も興味津々といった様子で瑞穂の顔を見た。

だが瑞穂は混乱するばかりだ。山本のことが好き?私が?



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