5−2
そんな時、ガラッと音をたててドアが開いた。
「獄寺君...」
途端、静かになった教室に綱吉の声が響く。遅刻だぞ、と怒る根津を獄寺は睨んで黙らせると、一直線に綱吉の元に向かい、
「おはよーございます、10代目!!」
「(え、そういう...?)」
瑞穂はパチクリと瞬きをした。それは周りも同じく、明らかに不良な獄寺が、見た目は弱そうな綱吉に挨拶したのだから、クラス内は大いにざわついた。
「な、どーなってんだ?」
「いつの間に友達に?」
「(ううーん、確かに沢田君は獄寺君の命の恩人だけど、まさかそこまで?)」
昨日の騒動を見ている身としては、獄寺が綱吉に恩があることは分かるし、ある程度理解はできるがまさかここまでとは。綱吉を見るなり、笑顔を浮かべた様子は友達というより忠犬といった方がしっくりくる。
「あくまで仮定の話だが、平気で遅刻してくる生徒がいるとしよう」
そんな彼、獄寺の様子を目にくれずに、根津は喋りだした。...獄寺の地雷を踏むのではないかと、長年の経験から察知する。
「そいつはまちがいなく落ちこぼれのクズとつるんでいる。なぜなら類は友を呼ぶからな」
続きの言葉は、出なかった。なぜなら、獄寺が根津に掴みかかったから。首を思いっきり締め上げられた根津は、泡を吹き始め、今にも気絶しそうである。
「10代目、落とします?こいつ」
呑気にそんなことを言っている獄寺だが、当の10代目、綱吉は顔を抑えていた。もうほっといてくれよという彼の心の声が聞こえた気がして、瑞穂は心の中で合掌した。苦労人なんだな、君も。
席を立ち上がった瑞穂は、とりあえず獄寺に根津をおさえるその手を離すよう説得することにした。
それが、一時間目の話。
昼休憩、職員室にまた用事があった瑞穂は、隣にある校長室に、獄寺と綱吉が入っていく様子を見てしまった。もしかして一時間目のことではないか。嫌な予感がしたが、でも私にできることはないとその場を立ち去ろうとした時だった。
「ちゃおっす」
どこからか声が聞こえた。子供特有の、高い声。辺りを見渡すが、人がいる様子など見受けられない。
「下だぞ」
「うお、」
思わず声が出てしまう。誰だってそうなるに違いない。だって、そこにはまだ小さな赤ん坊が_黒のボルサリーノとスーツを着こなした赤ん坊が、気配を全く感じさせることなくそこにいたのだから。