5−1
今日の理科の授業は、この間行ったテストの返却だった。
昨日、瑞穂が根津先生に呼び出されたのも、このテストを受けろということだったらしく。
しかし瑞穂は、獄寺と綱吉の爆弾騒動を見てそれどころではなく、呼び出しを忘れてすっぽ抜かしたのだが。
そして、案の定授業の最初にねちっこく嫌味を言ってきた根津は、何を考えたのか大学でも出されたという化学の問題を前で解けと要求してきたのだった。瑞穂を馬鹿にする魂胆だったのだろう。
しかしまあ、瑞穂もやられっぱなしでいるほど可愛い性根はしていない。
「前」の人生は確かに文系だったが、化学基礎選択だったため化学は得意だったし、「今」も高校内容の復習は既に終わらせ、今は「前」やらなかった理系科目も勉強し始めていた瑞穂にとってその問題を解くことは造作もなかった。ことさら、瑞穂は負けず嫌いだった。特に勉強面に関しては。
手を止めることなくスラスラと模範解答を記した瑞穂は、更に解答より手厚い補足_中学校内容でも理解できるように_を付けたのだった。その時の根津の表情といったら、なんと面白かったことか。
しかし、テストは受けていないため零点。補習は免れないだろう。仕方ないからその日はバイトは休みにしてもらうとして。_最近、明らかにバイトをする日が減ったのは、入院してしまったからか。あれ、別にバイトのせいではないんだけど。
閑話休題。
返却されるテストもない瑞穂は、周りがテストを受け取る様子を眺めていた。悲喜こもごもといったクラスメイト達の様子は、眺めているだけでも面白い。
「沢田」
「はい」
その名前が呼ばれて、瑞穂は視線を前に向けた。最近何かと関わっている彼。根津の表情が、また何か企んでいるように見えて、瑞穂は眉をひそめた。
そして、その予感は的中した。
「あくまで仮定の話だが...クラスで唯一20点台をとって平均点を著しく下げた生徒がいるとしよう」
「あの...っ?」
スチャッ、と眼鏡を抑える根津。
「エリートコースを歩んできた私が推測するに、そういう奴は学歴社会において足をひっぱるお荷物にしかならない。そんなクズに生きている意味あるのかね?」
ニヤリと、汚らしい笑みを浮かべてそう言い切った根津に、瑞穂は席を思わず立ち上がりそうになる。
クラスの面々は彼の点数を見て笑っているようだが、人の点数を見て何がおかしいのか。
特に先生なら尚更。どうしてそんなことができるのか理解に苦しむ。