備忘録 2


_いざ、筆を取ると何も書くことができない。娘は筆まめで、毎日日記を続けていた。その内容は彼女からはとうとう一度も見せてもらえなかったが、今になってこうして彼女の日記を勝手に見ると、罪悪感で胸がいっぱいになる。どうして守ってやれなかった。一人暮らしで、いくら私が前線から離れていても、今も危険な立場だということは誰よりも分かっていたのに。

彼女には、未来があった。何者にもなれる、自由な未来が。

自分の娘とは思えないほど優秀だった彼女は、東大にも合格した。「弁護士になりたい」と笑顔で語る彼女の将来は、私が一番守ってやるべきだったのに、やるせない。

本当に、情けなくて仕方がない。






(_これは、今から13年前のこと)











長月徹
長月瑞穂の父親。定食屋「ひだまり」の店長。「ひだまり」を開く前は、別の仕事をしていた。その仕事内容は不明。だが、よく怪我をしていたことから危険が伴う仕事だったらしい。






_そこまで書いたところで、少女は溜め息を着いた。だいぶ記憶を思い出してきたものの、未だ思い出せないものもある。例えば、「前」の両親の顔は、まだ靄がかかったようにしか思い出せていない。


「力は振るうものではなく、誰かを守るために」


ポツリと少女は呟いた。なぜか、その言葉が異様に記憶に残っている。どんな状況で言っているのかも分からない、それでもおそらく真剣な表情を浮かべた彼は、そう少女に教えてくれた。


記憶の中の彼は、色々なことを少女に教えてくれた。実の「父親」が教えてくれないよなことも、とても優しく教えてくれる。その記憶の中で、少女は常に笑顔だった。





「会いたいな...」





記憶の中でしかあったことがないあの人たちに、今すぐ。





(_これは、今から10年前のこと)




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