3−2
まだ釈然としない気分の瑞穂だったが、とりあえずこの紙については後回しにすることを決める。今はまだ、考えるべきことが多すぎる。
バイトを無断欠席してしまったこと。学校(主に風紀委員について)のこと。瑞穂は、 風紀委員に色々と後ろめたいことを隠している。そのひとつに校外でのバイト、もうひとつに委員会の仕事をほぼやっていないこと。雲雀にひとつでもバレてしまえばどうなるか、想像に難くない。
...冷や汗が流れてきたため、一旦学校については保留する。先程から瑞穂の脳内には、トンファーを持った雲雀に追いかけられるシーンが既に何回も流れているが、おそらくそんなことはもう二度と起こらないと信じたい、むしろそうなってもらわないと困る。あんな経験、一生に一度だけで十分である。
とりあえず、今一番危惧すべきことは、この病室のことだ。普通、病院に送られたとして個室には運ばれない。それもこんな豪華な部屋なら尚更。だとすれば、誰かがここに瑞穂を手配したはずで。そして、瑞穂はそれをできる人物を知っている。
「本当に、外面だけはいいんだから」
ベッド脇に置かれた花瓶、その下にはさまっている紙を見て瑞穂は顔をしかめた。
『From:和田原修治』
退院した時のことを考えて瑞穂は溜め息をついた。絶対面倒くさいことになるという諦めから。
▽
「おはよー」
「あ、瑞穂ちゃん久しぶりー、もう大丈夫なの?顔、まだ湿布貼ってる」
「ああ、“これ”は大丈夫」
無事(?)、退院して約一週間ぶりの登校をした瑞穂。そんな彼女の周りにクラスメイト達が集まる。その中でも、特に心配そうな表情を浮かべる京子ちゃんを安心させようと瑞穂はできる限り口角をあげた。長年使っていない表情筋は今や凝り固まってしまっており、なかなか思うように上がらない。ぎこちない笑みになってしまったのか、更に不安を滲ませた彼女の表情を見て瑞穂は反省した。こんなことで、中学生である彼女に心配などかけてはいけない。京子ちゃんなら尚更。
そのあとも瑞穂はクラスメイト達に囲まれ、結局席につけたのはSHRが始まるギリギリだった。
「おはよー、山本」
「お、和田原!久しぶりなのな」
席についた瑞穂はとりあえず前の席のその人物に挨拶をした。次いで、見舞いの手紙の礼も告げる。
喜んでくれて良かった、と屈託なく笑う山本の様子を見て瑞穂はやっと安堵したのだった。
やっぱり、山本って凄い。