綱吉と芸術
 翌日一時間目の授業は美術だった。今日は、何か絵を描くらしい。描くものは自由、各々自分が好きなものを描いていいそうだ。獄寺が早速綱吉を描こうとして何とか説得して別のものを描かせることに成功し、綱吉も何か描こうと筆を握るが何も思いつかない。適当に描きやすそうな筆箱を選び、筆を進めていく。視界の隅に、美術教師である先生の姿が見えた。今年でどうやら定年を迎える彼は、この並中出身で並中に赴任するのもこれで二度目らしい。彼も、何か黙々と絵を描いている。

「(何か知っているかな...)」

 かなり昔の生徒だった彼なら、もしかしてなまえの死ぬ前のことも知っているのではないか。しかし、そんな都合良いことなど起こるわけないと、綱吉は自分自身で否定した。いくら昔の生徒とはいえ、なまえと同時期に通っていた確率はかなり低いのだ。無駄なことは考えず、とりあえず目の前のことに集中しようと、綱吉はまだ白が目立つキャンバスに向き直った。





「流石十代目!素晴らしい作品です!」
「いやいや、恥ずかしいからやめてよ獄寺くん...」

 授業終わり、自分が描いた作品を周りに見せることになり、獄寺は最早テンプレと化したセリフで綱吉を褒めた。恥ずかしいからやめて欲しい。結局これからどうしようかとぐるぐる考えてしまってあまり集中せず、筆箱のつもりだったものはただの四角形になってしまったのだ。だが獄寺は、「これが芸術...!」と感極まっている。これが芸術であってたまるか。ちなみに、結局獄寺は綱吉の似顔絵を描いていた。そっくりすぎてちょっとびっくりした。

「それじゃあ、描いたものを前に提出してください」

 先生の言葉に、各々描いたものを持って前の教卓に並んだ。綱吉と獄寺も前に続いて並ぶ。

「ツナは何描いたんだ?」

 ちょうど後ろに並んでいた山本が綱吉に問うた。山本の絵をちらりと見ると何やら野球ボールとバット。なるほど山本らしい。

「一応筆箱なんだけど...これ」

 綱吉も山本に絵を見せると、山本は「羊羹みてえ」と笑った。途端、獄寺が山本に噛みつく。

「これは羊羹なんかもんじゃねえ、もっとすごいもんなんだよ!」

 そしていつものように始まる獄寺と山本の喧嘩(獄寺が一方的に噛み付いているだけだが)。山本はまあまあと笑っているだけで、一向に収まる気配がない。止める気も起こらず、そのまま眺めているといつの間にか自分の番になっていた。

「沢田は...これは」
「あー、一応筆箱のつもりです」
「そうか...筆箱...そうだな、どう見ても筆箱だな」

 分かってるじゃねえか、と獄寺の声が聞こえる。明らかに気を使わせてしまった。だが、先生は筆箱だと思うようにしたようだった。採点シートらしきものに「筆箱」と書いている。

「よかったな、ツナ」
「...うん」

 とりあえずは、意外にも優しい先生に感謝した。


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