「...これ、何に見える?」
「え、羊羹...?」
やっぱり駄目だったかと綱吉は肩を落とした。一時間目に提出した絵は、放課後にはもう返却された。自分の好きなものは手元になるべく持っていた方が良いだろうという、何とも不思議な理由を残して。ご丁寧にも、綱吉の絵には付箋が貼られ、何やらアドバイスが書いてあった。デッサンの仕方から筆の扱い方について端的だが分かりやすい説明に綱吉は泣きそうになった。久しぶりに人から優しさをもらった気がして。
しかしこのまま持って帰ってもどうせリボーンに見られる、ならなまえに見せてどんな反応が来るか確かめようと思っていたのだが、案の定羊羹と言われる始末。やはり筆箱には見えないらしい。
「ねえねえ、綱吉くん。それ持って帰るの?」
じっと綱吉の絵を見ていたなまえが尋ねた。
「そ、そうだけど」
思わず目を逸らしてしまう。本当は持って帰りたくなどないのだ。
「そっかぁ...」
しかしなまえはどことなく残念そうだった。名残おしそうに綱吉の絵を見ている。もしかして...
「これ、欲しいの?」
「え、いやぜんぜんそんなことないけど」
そのセリフに反してなまえの目は泳いでいる。幽霊だと言うのに、顔に冷や汗のようなものが流れているのが見えた。本心ではないことがバレバレだ。
「別に、俺も持って帰りたくなかったからあげるよ」
「本当!?」
途端、パアッと目を輝かせるなまえ。ちょっと可愛いな、と綱吉は思った。ほんの一瞬だけだが。
「じゃあ、奥の個室に貼ってもらってもいい?私、上手く触れないからさ」
「はいはい」
鞄からセロテープを取り出して、綱吉は奥の個室へと足を向かわせた。今思い返せば、全ての元凶がこの個室に入ったことから始まった。すっと目が遠くなる。
「にしても、どうしてこれ欲しいと思ったの?」
お世辞にも上手いとは言えない絵。普通何の価値も示さない絵だと誰しもが思うだろう。しかしなまえはパチリと目を瞬かせると、綱吉の疑問に答えた。
「うーん、自分でもよく分かんないだけど、なんか懐かしさを感じるというか、なんというか。ずっと見ておきたいなーって」
「なんだそれ」
「上手く説明出来ないんだってば!」
なまえはむくりと頬を膨らませた。その様子は、見た目年齢そのままで、綱吉はこのトイレに来てからおそらく初めて声をあげて笑った。なんだ、意外と可愛げあるじゃないか。
なまえは綱吉が笑う様子を見て更にいじけた様子だったが、気を取り直して綱吉に向き直った。つっけんどんな調子ではあるが。
「まぁ、ありがとう。大事にするわ」