しかしまあ、ここが人があまり来ないトイレでも助かった。もし女子トイレに入ったなど周囲に知られてみれば、どんな反応をされるか想像に難くない。その原因は、今目の前にいる彼女だが。
「それにしても、私のこと見える人、初めて見た!」
「...え、どういうこと?」
「声はみんな聞こえるんだけど、姿まで見えた人いたことないんだよね〜」
どうしてだろう?と首を傾げる少女。が、一方の綱吉は冷や汗をダラダラと流していた。それって、つまりは自分しか彼女の姿が見えないということであり、周りは一切見えていないのだ。そんなことがあってたまるか。
少女はしばらく何か思案したような表情を浮かべると、パンっと手を叩いた。何かを思いついたように。
「これも運命だよ!だから、君にお願いしたいの!どうか、私を成仏させてください!」
「....え、ええええええええええええ!!!」
本日3度目、綱吉は叫んだ。
「ど、どうしてそうなるんだよ!成仏ってオレにできるわけないだろ?」
「君にしか頼めないの!私のこと見える人なんて今までいなかったんだから!」
「でも、オレ、そういうの無理なんだって!」
「そこを何とか!」
少女は必死な様子でこちらに頼み込むが、無理なものは無理である。そもそも、綱吉は生粋のビビり。心霊現象など御免なさい、今の状況だって上手く飲み込めないのに、成仏?
だが、少女は食い下がらなかった。「かくなるうえは」と呟くと、綱吉の耳元で囁く。
「君が、笹川京子に全裸で告ったこと、今の1年生に拡散しよっかなー」
「...え?」
「今の1年生、このこと知らない子も多いみたいだし。だから、もし1年生にも知れ渡ったら、君、どうなるだろうね」
さぁーと綱吉の顔から血の気が引いた。ただでさえ、あれは自分でも拭い去りたい黒歴史なのに、それが1年生にも知れ渡ったら?つまりは、社会的な死が綱吉を待っている。
「別に、私はいいんだけどなぁー。元写真部の幽霊くんがくれた写真を掲示板に貼るだけなんだけどなー」
「何しようとしてんだよ?!てか、お前以外にも幽霊いんのかよ?!」
「うん、元写真部の森山くん。並盛中の色んな写真撮ってる。いい友達だよ」
綱吉は、ガックリと肩を落とした。ツッコミどころが多すぎる。まさか、並盛中に2人も幽霊がいるとは思わなかった。そりゃあ、色々規格外なところはあるけれども。
「あ、森山くん以外にも、元校務の横山さんとか沢山いるよ〜、よく将棋するんだ〜」
「勝手に俺の心読むなよ...幽霊も将棋指すんだな...」
「そりゃあ、暇だしね。それより、どうするの?」
「成仏、引き受けてくれる?」
こちらを覗き込む真っ直ぐな瞳に、綱吉は手を上げた。ギブアップ、降参の意志を示す。
「どうせ断ったらばら撒かれるし、やるよ。やればいいんだろ」
「お、さすがは沢田綱吉くん!」
にししと茶目っ気たっぷりに笑う少女を見て、綱吉は溜め息を零した。どうして、こんなことになってしまったのか。
「これからよろしくね、沢田綱吉くん!」
「...うん、よろしく」
ただでさえ、現在リボーン関連で色々とハプニングに巻き込まれているというのにこれである。そろそろお祓い行った方がいいかもしれない、喜びから宙を駆け巡る少女の姿を見て、綱吉は強くそう思った。