並盛中学校七不思議のひとつ、トイレの花子さん。3階にある女子トイレの一番奥の個室のドアを3回ノックしてその名を呼べば、「はーい」と少女の声が返ってくるらしい。だが、実際試した女子生徒はいないため、真偽のほどは不明。
だが、その噂はいつまでも消えることはない。風紀委員が禁止したというのにだ。それはなぜかって?なぜなら...
「私が囁いているからだよね!トイレに来た子に!」
「いや、やめろよ!なんでそんなことしてんだよ!」
綱吉は、じろりとその声の主を睨んだ。だが、その声の主はケタケタと笑うだけで本気にしていない。
「だってつまんないだもん。みんな、噂に怯えて中々来てくれないからさ」
その見た目14歳ほどの少女は、口を尖らせた。「花子さんが出る」という噂は、真偽はともかくトイレに訪れる人足を遠ざけているのは事実である。
「いやぁー、本当に、君が来て良かったよ、沢田綱吉くん!」
面白い玩具を見つけたと言わんばかりに輝いた少女の瞳を見て、綱吉は溜め息をついた。こんな状況に陥ってしまった自分の不幸を呪って。
少女は、艶やかな黒髪をお下げにして、並中女子の旧制服であるセーラー服を纏っている。そして、ぷかぷかと宙に浮いており、その足は透けている。つまりは_そういうことである。
そして、現在綱吉がいる場所。3階の、例の噂の女子トイレである。
雲雀から理不尽な理由で追われ、綱吉が命からがら逃げてきた場所がここだったのだ。普通、隠れるなら男子トイレを選ぶだろうが、綱吉にそこまで確認する余裕はなかった。ただ逃げ切るだけで精一杯だったのだ。
一番奥の個室の扉を開け、さすがにもう大丈夫だろうとほっと一息ついたところで_
「あのぉー、せっかく来てくれて悪いんだけど、ちょっと狭いかなぁ」
「う、うわぁぁぁぁ!」
恥ずかしそうにこちらを見るその少女を見て、綱吉は叫び声をあげたのだった。
それから、その少女_山田なまえから、彼女こそが噂の張本人である幽霊だと告げられ、またまた叫び声をあげて...冒頭に至る。
「にしても、本当にいたんだ...トイレの花子さん」
「そりゃあいますよー、にしても失礼だよね、私、ちゃんとなまえっていう名前があるんですけど!花子って何よ!?」
「はっはは...」
違う、気にするべきはそこじゃない。そう言いたいが、綱吉に指摘する勇気はない。彼は本来、ビビりなのである。正直、今もこうして対面しているだけでも怖い。