王者の過去‐後編(キングとテックス)
2018/01/02 03:14
「…。……?」
「…! キング!」
「…テックスさん?」
次に目覚めたとき、私はあの世ではなく、病院のベッドにいた。
横には涙を浮かべたテックスさんがいて、彼の服は血塗れ。私を助けたのは彼だと、それを見て悟った。
「…何故…助けたんです…?」
「何故って…決まってるじゃないか…っ!」
「……?死んだ方が……貴方にとっては都合が良かったんじゃ無いですか……?こんな…ドーピングするレーサーなんて……」
「君はドーピングなんてしてない!」
彼はそう、必死に断言した。
思いがけない言葉に、私は目を丸くしてしまった。
「…。やっていないなんて……どうして、わかるんです…?」
証拠がある訳でも無い。
彼は何を根拠にそんな事を言うのか?
私にはそれが不可解だった。
疑問を投げつけられたテックスさんは暫し何も答えず、そして、少しはにかんでこう答えた。
「分かるさ。
…だって、最初の頃からずっと走りにひたむきな君が、薬なんて使うわけないじゃないか…。」
「…え…?」
「私はね…キング、デビューからずっと君の事を見ていたんだよ…?地道な努力を重ねる君の走りは、見ていてとても心地好かった…。いつか優勝してほしい。いや、いつか絶対優勝するに違いない。そう思っていた。…だから君が初めて優勝してくれたときは、凄く嬉しくて…!君のスポンサーになれることが、とても誇らしかったんだ。」
「…テ…テックスさん…」
私は唖然としてしまった。
あんなちっぽけだった自分を、天下のダイナコオーナーが見初めていたなんて…。
自分のスポンサーになることを、誇りに思っていたなんて…。
「…しかし、スポンサーとは名ばかりだったな…。」
テックスさんは突然表情を沈ませ、私の手を…ギュッと握った。
「君が自殺を図る前に、君の事を助けてやれなかった…っ」
ぽろぽろと、涙を零す。
「すまなかった…すまなかった……キング…っ」
テックスさんは私の手を握りしめたまま、懺悔し続けた。
ベッドのシーツにぽたぽたと涙が零れ、染みていく。
「や、やめてください……」
その姿は、胸を締め付けて仕方なかった。
「…どうして……っ」
…分からない。
「貴方は…悪くないのに……っ」
私まで涙が溢れて、止まらなかった。
――。
シャワーを終え着替えた時、ドアをノックする音が聞こえた。
「テックスさん」
「やあ。今日も素晴らしい走りだったね。おめでとう!」
「最高の仲間達の御蔭です。勿論、貴方も。」
「…当然のことをしたまでさ///。どうだ?これから、一緒に食事でも。」
「はい、喜んで。」
私は笑顔で、彼に答えた。
あの過去を、私は消したいとは思っていない。
あの過去があって、
今のこの、最高のパートナーに出会えたのだから。
fin
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