父のもの(月松)
2014/07/20 03:09
ネタバレ気味かもしれません。
ご注意!
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まだ父が生きていた頃。
僕は初めて松島田と出会った。
父はグルメで、あまりある金を食事に使い色んな店に足を運んでいた。気に入った店には、家族も連れていくようになる。
松島田がかつていたレストランもその一つで、特によく連れていかれた。
銀座に店を構える、所謂超高級レストラン。松島田はそこのコックだった。
…といっても、料理長は別にいて、松島田は下っ端。
でも父は、そんな下っ端をよく呼び付けて、会話をしていた。
幼い僕は何も知らなかった。
けど、父と松島田の会話には違和感を感じた。
『今日も可愛いね』
『またそんな事をおっしゃる。』
『本当の事だからな。』
―どうして父さんは、大人の男の人を“かわいい”って言うの?
『…今晩も、どうだ?』
『………お待ち、してます…。』
―どうしてこのコックさんは、顔を赤くするの…?
『ふ、早く行くようにするよ。…さて、そろそろ“ここは”失礼しようか。』
父がスッと席を立ち、続くように僕も席を立った。
『またの御来店、お待ちしております…。』
顔を赤くしたままの松島田を、僕はずっと見ていた。
『光、』
そんな僕の様子に気がついたのか、不意に父が僕の名を読んだ。
なぁに?
僕が返事をすると、父は
『お前にはあげられないよ。』
そう一言だけ、言った。
あげられない?
何が??
僕は、わからなかった。
わからなかった… でも
―くやしい。
無意識に、そんな気持ちを父に抱いていた。
fin...?
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