断末の走馬灯(フィンヴィク) 《死》
2012/12/05 22:00
チカ。チカ。チカ。と。
昔の記憶が頭を巡る。
走馬灯とはこういうことをいうのだろうか。
英国の諜報部に捕まってどれくらい経ったか…
今私が受けている拷問は、どんな痛みなのか…
何ももう、分からない。
けれど、
“もうすぐ死ぬ”
そのことだけは判る。
だからこのチカ、チカ、と頭を巡る記憶も、きっと走馬灯なのだと…
でも…
この記憶は…何なのだろう…
一人の男の姿。
彼はいつも私の横にいて、
いつも私を支えてくれて、
いつも私に、笑顔を見せてくれていた。
私はその笑顔がとても大好きだった。
彼が、大好きだった……
なのに名前が、
名前だけが、思い出せない。
ああ。
ああ…駄目だ…
どうしても思い出せない…
それにもう、時間切れだ…
…ならば、せめて…
彼の元へ。
その想いでヴィクトールが伸ばした手を、フィンはぐっと掴み、冷たい声で静かに言った。
「手を伸ばしても、アレクサンドルには届かないよ。」
刹那、フィンはヴィクトールの首筋に深くナイフを刺した。
鮮血が噴き出し、ヴィクトールのスーツに新たな血痕を描く。
「あの世で会いたまえ。」
ヴィクトールの心臓は、静かに脈動を停止した。
Fin
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