04

「沖田、くん」
「何でィブス」
「ブス、じゃ、ないけど。ていうか、は、風紀委員に、く、行くんじゃ…ふ、なかっ、たの?ああもう重い!暑い!疲れた!!」


風紀委員を理由に私を連れ出したくせに、なぜか沖田くんは私が一生懸命に漕ぐ自転車の後ろで涼しい顔をしていた。
何だこれ。なんで私がこがされてんの。普通お前が漕ぐだろこういうのは。
そんな気持ちを込めて一旦足を止めたわたしが後ろを振り返ると、背中にピタリと張り付いた沖田くんは上目遣いで私を見た。く、見た目だけは良い。



「おい、止まんなよ。あの地平線の向こうまで行くんだろ。」
「いやマジで意味わからないんですけど。重いし暑いわ。」
「うわ、汗かかないでくれやす?まったく。しがみついてるこっちの身にもなってほしいもんでさァ」
「このクソ暑い中男一人乗せて自転車漕がされる私の身にもなって欲しいけどね」
「はいしゅっぱーつ」



私の意見は全て無視だ。
しゅっぱーつと感情の読み取れない声でそう言った沖田くんは私の頭をがしっと掴んで無理やり前に向けさせる。痛い。首がごきっと鳴った。



「それで、どこまで行くの」
「地平線の向こうだって言ってんだろ馬鹿なまえ」
「地平線の向こうにはまた地平線があるんだよ。地球は球体なのだから。馬鹿な沖田くんは知らないかもしれないけど。」
「うぜェ」



沖田くんは、仕方なく再び足を動かす私の背中に、うぜェという声とともに頭突きをしてくる。地味に痛い。


ああ、先生とせっかく話ができそうだったのに。
そんな事を思わないでもないが、何故か沖田くんがあの場から連れ出してくれて安心した自分もいる。


きっと、私は、終わってしまうのが怖い。
先生と気持ちが通じ合っている時間を一秒でも引き伸ばしたい。
話して仕舞えば、終わってしまう気がした。
先生の口から、綺麗で、完璧なようでいて少し残念な保険医のことが好きだと言われたら私は多分死んでしまう。



「沖田くん」
「うるせーなさっきから何度も何度も、何でィ」
「さっきのアレどういう事?」
「さっきのアレ?」
「泣かせるなら俺が貰ってくって」
「…そのまんまでさァ。これ以上なまえがブスになったら友人として恥ずいから二度と泣くなよ」



ぎゅうと背中に張り付いた沖田くんが一層私のお腹を締め付けて、私はなんとなくコイツが友人でよかったかもしれないと思った。



「友人なんだ」
「どういう意味でィ」
「いや、下僕くらいに思われてるかと」
「ああ、なまえは下僕寄りの友人ですぜ。安心してくだせェ。」
「あ、全然安心できないわ。心配しかない。私は沖田くんの将来が心配だよ。そんなにひん曲がっててどうするの」
「お前もな。性癖かなんか知らねーけど、すぐネガティブになんのやめてくれやすか。腹立つんで。」
「性癖なわけねーだろ、性格だよばか沖田」