03

だらだらと適当にホームルームを進める銀八を後ろの席から眺めて、やっぱりかっこいいなぁとか思うのはもう、完全に惚れた弱みというやつだろう。


惚れたが負けとはよく言ったものである。
どちらが先にそういう感情を抱いたのか定かではないが、間違いなく私が先だったと思う。



「あ、れ…?」


そもそも、今気付いてしまったのだが、私は銀八から好きだと言われていない。
あの時、私は好きだと言わされたが、それに対する先生の返事に、俺もとかそういう類の言葉はなかった。

ちうっとおでこに寄せられた先生の熱ですっかり満足してしまったが、果たしてあれは、俺も好きだよの意を本当に含んでいたのだろうか。


あれ、なにこれ。


ひょっとして私が勝手に舞い上がっただけなんじゃないだろうか。そんなネガティブな結論が脳内に、昼間に見た月詠先生の綺麗な回し蹴りとともにはじき出されて、じくりと胸が痛んだ。
あの慈しむようなキスは、ごめんな。と言っていたのか。そう言われてみれば、そんな気もしてくる。


はいじゃあ解散、とか謎の締めくくりを気の抜けた声で言った先生に新八くんが大声でツッコミを入れて、それを合図にガヤガヤと騒がしさを増した教室がぐにゃりと歪んだ。
あ。泣いちゃう。


「おい、なまえ」


ダメダメダメ。泣いたらダメだ。
慌てて天井を仰ぎ見て涙をこらえたけれど、ホームルームの間ずっと様子がおかしい私に、先生が気づかないはずもない。
蛍光灯がピカピカ光る天井を一心に見つめた私の耳にいつのまにか近くまで来ていた銀八の声が聞こえた。このまま無視することもできない。
少しでもへんな対応をすれば、意外と聡いうちのクラスの連中は気づいてしまうだろう。
バレてはいけない。絶対に。


先生の声に反応するためにパッと顔を前に向けると、堪えきれなかった涙が目の端から溢れて、どこか機嫌の悪そうだった先生の顔がぴくりと驚いたように反応した。


「せん、「なまえ行きやしょう」


先生、と呼びかけた私を遮るように。
恐らく、何泣いてんだ、と言いかけた先生の言葉をかき消すように。
私と銀八のあいだに突然、にゅ、と仏頂面の沖田くんの顔が出てきた。


「あ、え?どこに、」
「はァ?今日は風紀委員の仕事手伝うって昼間言っただろ。じゃ、そういうわけなんでコイツ連れていきやすよ。」



そんな約束をした記憶はない。
そうやって言ってやろうとした私の顔面をゴシゴシと腕で手荒に擦って、机の上に乗せられた私と沖田くんの二人分のカバンをひっつかんだ彼はあ、そうだ。と何かを思い出したかのように先生の方を見た。


ぐいっと腕を引かれて、立ち上がった私を背中の後ろに隠すように引っ張られる。



「アンタがそうやってコイツ泣かせるなら、俺が貰ってきやすけど別に良いですよね。先生。」
「…何言ってんのお前」



先生の何言ってんのお前といういつもと別段変わりないトーンの声はちくちくと私の胸を締め付けた。