2日目

何故か先生がかっこよく見えるとか、
そう言う時代ってあるのよ。


これは先日、私は別に聞いてもいないのにいつものようににっこり笑ったお妙ちゃんが私に向かって言い放った言葉だ。

そう言う時代。そんなものだろうか。
というか誰にも相談していないのに何故勘付かれたのか、女の勘というのは恐ろしい。



でも、確かに、私はまさに大人がかっこよく見えてしまう年頃なのかもしれない。
言われてみればそういう年頃な気がしないでもない。



うーん。と唸って、
コンビニで買った生クリームがのったプリンと菓子パンを慎重に運びつつ空を見上げる。


今日もいい天気。
良すぎるくらいだ。
まだ午前中だと言うのにじりじりと太陽が肌を焼くのがわかるほどには日差しが強い。



補習二日目の朝である。
朝というか昼というか。
そんな事はどっちでもいいのだが、昨日は結局プリントが終わらず、帰るのが昼過ぎになってしまったので今日はコンビニで昼ご飯を買った。
プリンなんて、きっとあの暑い教室に置いておいたらぬるくなってしまうが、甘い誘惑に耐えられなかった。


え?先生の分は?俺の分はないの?とプリンを食べる私をみて銀八が抗議する姿が目に浮かんだ。
別に、それがみたくて買ったわけではないけれど、でもきっとあの時コンビニで私を誘惑したのは甘味の魅力だけではなかったと思う。



昇降口で上履きに履き替えて教室に向かうと、やっぱり中は空っぽで、ただ私の机の上だけにぞんざいにプリントが数枚置かれていた。


先生はまだ居ない。



キョロキョロと周りを見渡せば黒板にでかでかと
プリントもって国語準備室
とだけ書いてある。
見間違うことのない。銀八の字だ。
意外と綺麗な。







指示通りに机の上のプリントを回収して国語準備室の扉をノックすれば向こうから、おー、入っていいぞーという気の抜けた声が聞こえた。



「しつれいし…あ、涼し」



カラカラと軽い扉を開いて一歩中に踏み入れると冷気が身を包んだ。


教室はクーラーが使えないようになって居たが、国語準備室は違ったようだ。
窓際の角の席に座って煙草をふかしていた銀八が、涼しい顔をして、何だよ、今日も真面目にちゃんと来たんだな…なんて言いながら私を手招きしている。先生が上体をそらしたせいで回転椅子がキュウ…と音を立てた。



「おはようございます、なんで今日は国語準備室?」
「おー、ホラ、どうせなまえしかこねーのにあんなクソ暑い教室でやる必要ねーだろ」
「はーさすが先生、」
「まァな」
「ズル賢さなら誰にも負けませんね」
「え?…喧嘩売ってる?喧嘩売ってんのか?」
「売ってませんあー涼しい」



軽口を叩いて銀八のデスクの隣まで行けば、デスクの脇にパイプ椅子が置かれていた。
…まさかここに座ってやれと?
他にもたくさんデスクがあるのに、なんでわざわざ銀八のデスクを2人で共有するんだ。



「はいここ座って」
「えー?ここじゃなきゃダメなんですか隣のデスクとか空いてるじゃないですか」
「ここ以外は俺の席じゃねーから」
「そういうの気にする人でしたっけ」
「いや別に俺は気にしねーけど後でバレた時にやいやい言われるのはなまえだから」
「庇ってくれないんですね先生」
「いやいや自分の身は自分で守れるように訓練してやってんだろーが」
「めんどくさいだけでしょ」
「まあそうとも言うな」



…まあいいや。
とりあえず座ろう。


もういいです、ここでいいです。と言ってもう一度パイプ椅子を見る。
私のために、銀八が用意した。どこから持ってきたのかだいぶ古びたパイプ椅子だ。これ私が座ったら壊れるんじゃないの?
壊れたところで銀八はきっと床に転がる私を見て心配するどころか、何やってんだお前と笑うだろう。うん、でもそういう教師にあるまじきところが好きだ。



長方形のデスクの真横。
座ったら銀八の横顔がもろに見えるその位置。
私はこんなところに座って真剣にプリントが解けるのだろうか。こいつわかっててやってるんじゃないのかな、なんて一瞬だけそんな考えが頭をよぎって先生の横顔をちらっと盗み見るけど、もうパソコンの方を見ていてこっちには無関心。
なんだこのやろー。こっち見ろばーか。