Intended Paradox



「おめでとうございます。あなたはこの度希望する過去に戻り、やり残した後悔を払拭できる十人に選ばれました。期日までに同封した書類に目を通し、指定の場所にお越しください。どうぞ、ひとつでもあなたの後悔が消え、幸福に一歩近づきますよう」

一人目
「初めまして、おめでとうございます。書類はお読みになられたでしょうか」
「はい。プランはAで」
「希望する過去はいつでしょう」
「中学三年生の夏頃に。好きだったクラスメイトがいたんですけど、告白しないままその子は転校しちゃって...彼女は僕に興味はなかったみたいでそこまで仲良くはなかったんですけど、今もたまにそのことを思い出して、フラれてもいいから想いを伝えればよかったって」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」

二人目
「初めまして、おめでとうございます。書類はお読みになられたでしょうか」
「ええ、しっかりと。Bプランでお願いします」
「希望する過去はいつでしょう」
「二年前の今くらいの時期に。あの時は道に迷ったのか困っていた外国人に話しかける勇気がなくて、それから勉強して少し言葉を覚えたので、この貴重な機会に何かしら彼らの力になれれば」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」

三人目
「初めまして、おめでとうございます。書類はお読みになられたでしょうか」
「おう、Bのやつで頼む」
「希望する過去はいつでしょう」
「...一ヶ月前、だな。...明日がばあさんの月命日でな。数年前から入院していたが、闘病の末の大往生。だが、日に日に痩せていくあいつを見ていられなくてそのうち、そのうち、と言ってる間にぽっくりだ。だから...せめて死に目だけでもと思ってな」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」

四人目
「初めまして、おめでとうございます。書類はお読みになられたでしょうか」
「あ、はい...えっと、プランBで」
「希望する過去はいつでしょう」
「えっと...二十二年前の七月十八日の朝、かな。えーっと...僕が生まれる前に父は...んーと、事故、で死んじゃったらしくて、母もショックが大きかったのか...今でもお酒に酔って喚く時があって、でも偶然二人で仲良く写ってる写真を見て、やっぱり近くで会ってみたいなって。できれば、この写真の場所の近くに飛ばして欲しいです」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」


四人目
「初めまして、おめでとうございます。書類はお読みになられたでしょうか」
「私はプランAでお願いします」
「希望する過去はいつでしょう」
「中学最後の秋に戻りたいです。入学した頃に好きになった男の子がいて、でも私の家は転勤族だったのでその時も細かい時期までは決まってなかったけど卒業するまでに転勤することは決まってて。だから必ず離れ離れになるなら仲良くならない方がお互いのためにいいと思ってたんですけど、別れる前に連絡先を聞いておけば良かったって」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」

五人目
「こんにちは。書類はお読みになられたでしょうか」
「ああ、読んだ。プランAで頼む」
「希望する過去はいつでしょう」
「二年前の十二月十日の昼過ぎに戻りたい。あの日、ばあさんが買い物途中で車に撥ねられて、幸いにも命に別状はなかったがほとんど寝たきりになってしまった。人間ってのは歩けなくなると途端に弱っていくもんで、それから色々とやってきたがついに先月眠るように逝ったよ。だが叶うならあの日一緒に買い物に行って守ってやりたい」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」

六人目
「初めまして、書類はお読みになられたでしょうか」
「もちろん。プランBを希望するわ」
「希望する過去はいつでしょう」
「二十二年前七月上旬に。下旬に入る少し前に妹が婚前旅行と称して当時付き合っていた彼氏と二人で一泊二日の旅行に行ったんです。そこで二人は殺されました。目撃証言によると若い男だったそうです。二人を殺すくらいの理由がなんだったのか私には分からないし、分かりたくもない。時効はなくなったとはいえ犯人の目星すらついてない。私にとってたった一人の妹なのに、殺されてから動かれたって意味がない。だから私が妹たちが殺される前に私がその男を…」
「分かりました。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してください。では、行ってらっしゃい」


『深刻なエラーが発生しました。強制終了します』


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