夢の終わり



羽音が聞こえる。
夥しい数の羽音が私を取り巻いている。
鳥というよりは蛾や飛蝗といった大型の昆虫の薄い翅の忙しなく羽ばたく音が夢の中から覚醒の境目までずっと続いている。

目を開けるとまだ夥しい羽音は続いている。
しかし、その音を生み出せるような虫は一匹たりとも見当たらない。
毎朝目覚めると同時に目に入る天井、丸い蛍光灯の後ろその明るい茶色地に波打つ焦げ茶色の木目模様が、更に細かく波打ちその模様一つ一つが今の今まで小さな無数の小さな羽虫が集まって形作っていたかのようにうぞうぞと蠢き始め、いつの間にか蛍光灯を飲み込み始める。
一瞬たりとも動きを止めることなく形を変えていくそれを気色悪さを感じつつも目を離すことができない。

目玉だ。
蠢き続けていた羽虫がついに動きを止めると、大きな目玉を思わせる模様を羽に持つ巨大な蛾が現れた。
蛾がおもむろに羽を羽ばたかせると、ゆらゆらと鱗粉が振りまかれる。
窓から差し込む日光に当たり金色に光る鱗粉を鼻から吸い込む。
肺に入り込んだ鱗粉が血流に乗って全身を巡り、細胞の一つ一つに染み渡っていく。
徐々に呼吸も深くなり、吸い込む鱗粉の量も増えていく。

どれくらい繰り返していただろうか。
蛾は羽ばたきを止め、じっと私を見下ろしている。
不意に、私の、私を構成している細胞が、全てが小さな羽虫となり天井に留まっている蛾の下へ無数の羽音を響かせながら向かっていく。
そして、蛾が崩れうぞうぞと蠢き、私もその蠢きの一部となってまた静寂が訪れる。

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