コンクリで塗り固められた壁に床に天井、蛍光灯は申し訳程度、灰色のコンクリが増して汚れて見えるのは薄暗さによる錯覚でも何でもない単に煤けているからだ。窓はあると言えばあるが鉄格子が視界を遮る。まさに薄暗い薄汚い薄気味悪いの三拍子。劣悪な環境とまではいかないもののどうして俺はこんな所にいるのだろうか、そう思わずにはいられなかった。 いつもならば自室のデスクに足をだらしなく乗っけて幸せな一時と言える怠惰な時間に包まれコレクションである銃器やナイフの手入れをしているはずなのだから。それに比べて今の自分の状況といえば、嬉しいことに灰色コンクリに囲まれて手を左右に揺らせばガチャガチャ煩わしい音を立てる鉄のアクセサリー、そして親切にも身体を引きずるように何処かへ導いてくれる堅苦しい制服を着込んだ男。ははは、笑える。これが笑わずに居られるものか。
口元を引きつらせながら、どうせ引きずられんならボインなお姉さんがいいな、なんて現実逃避。こんなナンセンスな状況なんだ、少しくらい不健全なことを考えても許される筈だ。そんなこと考えられるなんてどんだけ図太い神経してんだとかいうツッコミは特に必要としていない。俺が生まれながら図太いことなどとうの昔に理解しているのである。
「ねえねえ君が看守?警察?んまぁどっちでもいいけどなんで俺がこんなとこに連れて来られなきゃいけないわけ?」 「………」 「ねえねえ聞いてんのー?無視?シカト?つれないなあ」 「………」 「喋れないわけじゃあないんだろ?」 「………(いらいら)」
金糸の彼は無言のまま俺を引きずりずるずるずる、前進あるのみ。顔色に若干赤みが増した気がしなくもないが。
「そんなんじゃ恥ずかしがり屋のチェリーボーイみたいだよ」
ブチ、例えるならばコートのボタンを無理矢理千切ったような、電気コードが千切れたような、強いて言うならば血管が切れたような。あまり心地良くない音がした、ふむチェリーちゃんは禁句だったか。
「お前が!銃器の販売転売してることは調べついてんだよ!!改造銃を夜中にぶっ放して建造物は壊すわ、マフィアに流して抗争の助長するわ、あと言っとくが俺はチェリーボーイなんかじゃなぁぁあい!!!!」 「おふ!」
ちょ、キミ。手を振り回さないでくれないか、君の手に握っている縄は俺の手錠に繋がっているのだから。そんな気持ちなど知らずやんややんやと喚く男の細い細い糸で保たれてた平静はブチ切れたようで、悪人に負けず劣らずの表情をして俺に語りかけた。
「ふはは、ふざけたことを言ってられるのも今のうち。貴様は今から入れられる牢獄で地獄を見ることになるだろうからなあ」
泣き叫んでも助けてやらん!とかなんとかやんややんや。これから俺は地獄を見ることになる予定のようです。
衝撃的なスタートライン(物語は始まった)
お題提供『ace』 |