急進的日常


6.急進的日常


「先生!」

「ねぇ!カーミングってばぁ!」

「君たち相談がないんなら帰んなさい」

「「「拒否しまーすぅ!」」」

「はぁ…」


ど、う、し、て、こうなった。
俺が悪いんだけどさ!!


 * 


事件解決後、校長に借りたドローンを返しにいく。行きと違って運転はまぁまぁ慣れたかな。


「お疲れさま!随分派手にやっていたね」

「はは…感情的になってしまいました。ヒーローとしてはダメダメですね。今まで甘えた状況で鎮圧してたから…弱く、なったのかなぁって」

「弱くなったとしたら君の心だね。カウンセラーとしては由々しき事態だが人間としては正解さ。ああ、今までと言えば、君の活躍が露見したせいで今までの活動とか特集組まれてるよ」


今なんとおっしゃいました?話を聞きながらドローンを格納する手が止まってしまった。特集?誰の?おれのか。は?


「殴り合いはバッチリ抑えられていたよ。そこから彼と対等な人物を探ったんだろうね、学生時代の君の写真も出ていた」


マジかよ…


「君が敵に高校の養護教諭と話していたのもあって、ひっきりなしに電話がかかってきているよ」

「ん”んっ、大変申し訳ありません!!」


マジかよぉ…


「これだけ騒がれたらアングラは難しいだろうね。これを機会にメディア露出を増やしてもいいだろう。もちろん全部の両立はしてもらうけど」


マジかよ…ッ


雄英のカウンセラー、ヒーロー活動、そしてこれからはメディアにも出てみては?ということね。嫌みを含んだ、テレビに出て早くどうにかしろと言う意を込めた圧。


「今日中にっ、対処いたします…ッ」


 * 


「…ただいま、静」

「あ、おかえりなさい凪さん。もぅ吃驚したんだから!!保健室に帰ってきたらいないし、テレビは凪さんでいっぱいだし、あの爆心地とケンカしちゃうし!」

「ごめんて、居てもたってもいれなくて」


少しプンスカしているものの俺の個性も合間ってだんだん落ち着いてきた。心配をかけてしまったことに申し訳なさはあるが、可愛らしい怒り方なのでありがたいもんだ。


「凪さんのせいで来客が減らないんですから」

「校長に聞いたよ。メディアに出て終結させろって言われちゃったよ」

「そうじゃなくてっ!あれです!」


静が指差した先は俺の仕事場でプライバシーのために完全防音のカウンセリングルーム。なにがあるって言うのさ。


「あー!!やっと帰ってきた!」

「悠揚先生大変なことになってるんじゃなぁい?」

「君たちねぇ…今日の予約は入ってなかったはずだけど?」


そして冒頭へと戻る。

最近の若い子って一括りにするのはよくないってのはわかるけど…最近の若い子は何でこんなにもズケズケと。


「先生がデクたちと同期ってのは聞いてたけど一緒にいるの見るまで疑ってたんだよね」

「やっぱりあの個性はチートだよ。あの爆心地でさえ気を失ったんだから!」

「…俺が最大限まで使ったから、気が立っている人ほど影響されるんだよ。ほら、先生はお仕事があるから帰んなさい。君たちも午後は相澤先生の授業でしょ?」


相澤先生の名前を出すと仕方がないというように部屋を出ていく。俺も入試監督の覚えないといけないし、今度は事務所から送られてくるコスチュームを着て事件を解決せねば。いや、校長の言う火消しのためだよ。


「静〜、俺こっちで作業するから。コスが2時間後くらいに来るかな。そのあとは外回りしてくる。他にも何かあったら呼んでねー」

「はい、頑張ってくださいね」


さてと、入試採点評価基準?個性に合わせて採点方法が異なってくるのか。心操の例があるもんな。アイツ何気に雄英の入試制度変えちゃったのかよ、スゲェな。んで、なになに?個性の条件によって………


チリン…チリン

黙々と読み進めること1時間。まだまだ終わりそうにないが静が俺を呼ぶ心地のよい鈴の音が聞こえた。集中していたから時間の経過に疎くなる。


「静?カウンセリングかい?」

「あぁ、いいえ。相澤先生ですよ」

「はぇ?」

「いたな、悠揚。これと、これ。行くぞ」

「え?コス?え??ちょっ、説明くらいしてくださいよ先生」

「とりあえず行くぞ」


渡されたのは俺のコスチュームケースと5枚ほどの資料。せめて少し説明しませんか?


 * 


そして連れてこられた東京某所。


「結局説明なしですか…」

「俺とお前のセットだ。何となく察しろ」


察しろというか何となくはわかっていたけど。こういうときは大抵凶悪敵の確保。しかも一人や二人じゃなくて二桁の敵たち。過去4回彼と組んだがどれも骨が折れるもんだった。先ほど渡された資料には間取り図と侵入経路が書いてある。


「はぁ…最大威力はもう使えないっすよ…」

「事件はしごはお前の常じゃねぇか。弱音垂れるな。個性増強剤を取り扱っている組織なんだが…もちろん違法でボディーガードにバトルに強い個性持ちがいるらしい」


不満を滴ながらも狐の面を被る。つい数週間前までは1日に何件も出動していたからまだ感覚は鈍っていない。ヒーローとして活動するのは本業なので問題はないがなぜこのタイミングなんだよ。作戦本部に到着すると警察を含めバトル系ヒーローが二人。


「20分後に幹部が到着すると情報が入った、全部抑えるぞ」


そして急に始まった今日2件目の確保劇。


突入合図により侵入。俺が鎮静させ先生が敵の個性を抹消して無効化させる。こんなにあっさりでいいんだろうか。


ん?報告では16人とあったが今検挙したのは15。


「取り逃しがいる…?」

「まずい近くは大通りだ!今逃げられたらもうつかまんねぇぞ!」


ドォオオオン!!!


現場に轟音が響き渡る。おいおいおいおい、アイツはこの部屋に入ってきてなかったってのか?オフィス街だからと個性の範囲を限定しすぎた。複製か幻影かの個性持ちがいたのか、くっそ厄介だな。


「俺も行くっ」


経験からしてアイツは本体だ。先に対応していたバトル系ヒーローの個性が効かないのだとしたら個性は透過の類い、物理攻撃は無効かよ。でもミリオ先輩の方が断然凄いしッ。


「落ちろっ!」


大通りに出た敵だったが周辺は避難がすまされていて警察の有能さを思い知らされる。イレイザーがいればアイツの個性は消せる。だが彼に現場を任せてきた。配役ミスったかな。大丈夫、いける。


いつも通り戦意を無くした敵の前に立つ。コイツはよほど逃げたいのかまだもがいている。4割程度の個性だけど手強いな、その精神力別のことに使えよ。手をかざして個性の作用を強化させる。これでとどめだ。


「身を慎んで凪げ、敵よ」

「あっ…ぐ」


土下座のように頭を垂らし跪いた最後の敵。


「ったく、手間かけさせやがって」


気を失った敵を引っ掴んで警察に引き渡す。


「こっちも終わったな」

「イレイザー、そっち任せきりにしてすみませんでした。俺が残ればよかった」

「いや、俺が残ったのはわざとだ。この後はお前に丸投げしようと思ってな」


はて?この後とは?


「いっでっ!?」

「合理的に解決してこい」


警察陣営から蹴り出された俺の眼前に広がるマスコミ。あー、ヒーローインタビューってやつ?カメラとマイクが突きつけられコメントを求められる。おい、誰が新人ヒーローだよ。メディア露出ゼロだけどさっ!


「初めてお目見えしますがヒーロー!お名前を!」


なるほど、先生が言った合理的にとは今も雄英で鳴り続けている電話や、俺の素性をあることないこと書かれる前に解決しろってか?優しくねぇな。

仕方がないとひとつため息を溢し、ヒーロー活動中はずしたことのない狐の面の紐へ手を伸ばす。


「えーっと……さっきぶり、ですかね?」

「爆心地と殴り合いした雄英の!」
「今までその姿を私たちに見せることはなかったですが、それはなぜなんですか!?」
「ヒーロー名!ヒーロー名を教えてください!」
「あなたの個性はなんですか、さっきといい今回といい敵を戦闘不能にすることに長けている個性ですが!?」


聖徳太子〜。矢継ぎ早に飛んでくる質問を一気に俺は答えることができずにモタついてしまう。コミュ症ではないが上鳴とか芦戸はこんな状況でも対応できるから、成績悪くても頭の回転の早さに今更ながら尊敬の念を抱く。


「えーっと、俺の名前はカーミング、個性は沈静。アングラで活動してたんだけど…昼間のやつで俺が雄英に勤めてるのが割れて電話が鳴りやまないし、俺の素性を勝手に探られちゃ堪らないからねぇ…」


その後、相澤先生の思惑通り俺のせいで雄英に来ていた迷惑な電話は減ったらしい。事務の皆さんご迷惑お掛けしました。


 * 


『こんばんは、夜のニュースをお伝えします。先日から立て籠っていた敵グループは空から現れたヒーローによって解決されました。また15時頃◯◯で起こった事件もそのヒーローが解決したんですが…そのヒーローは………』


『Sな君!君主カーミング!』

『Sってサディスティックってことですかね?』

『こちらをご覧ください』


『「身を慎んで凪げ、敵よ」』


「「「キャーッ!!」」」


『スタッフからも黄色い悲鳴が聞こえますが、容赦なく敵を倒した際の決め台詞に加え面を外したこの容姿!昼間には爆心地と白衣姿で喧嘩する姿も見られたんですが!そんな血の気の多いところも素敵だとフォロワーが急上昇しているんですよ!かく言う私もフォロワーになってしまいました…』


『今日は番組内容を一部変更し、君主カーミングについて特集していきたいと思います!!!』


ブッっっっっっっっ!!!!!??!?!


「はぁっぁああ?!?!??!?!!」


雄英への被害は減ったが、結局俺のあることないこと書かれてしまい夜の教員寮に俺の叫び声が響いたのであった。


「悠揚うるさいッ」


先生は何処までも優しくなかった。


【急進的】

理想の現実や物事の改革を急激に行おうとするさま
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