人間的日常


7.人間的日常


『今朝も引き続き君主カーミングについて特集していきます。彼は雄英高校出身で、デクやショートと、そして彼と殴り合いの喧嘩をしていた爆心地と同期なんだそうですよ』

『爆心地と仲悪いんですかね?』

『彼の性格からしてあれがデフォルトなので…』


皆さん、おはようございます。カーミングこと悠揚凪です。あれから1週間あまりが経ちますが毎日テレビで自分の顔を見ます。ほんともうヤダ。


「静、ねぇ癒しておくれ」

「怪我をしていない人は癒せません」

「心に傷を負っています。助けてください」

「それこそむーり」


俺の味方だと思っていた静は最近ずっとこんな感じだ。ウザがられている自覚はある。茶番にはノってくれるから見限られてはいないのが救いだ。

今までの事件解決数や検挙率、個性や雄英生時代のことなど取り上げられているが、一番多いのは爆豪との不仲or仲良し説。というのも皆さんがご存じの通り罵声を浴びせ殴り合いの喧嘩をしたため。
ここまでだとただの喧嘩と思われるのだが、会話まで文字起こしされてるんだから、恥ずかしくて死にそう。

今までメディアにでなかったツケがこんな形で回ってくるとは…ッ。爆豪も被爆してるけど知ったこっちゃねぇ。

試験監督マニュアルはなんとか頭に入れることができたし、幸か不幸か俺がメディアに出てカーミングってすごいやつなんだってことが生徒に周知され相談が増えた。相談は公欠扱いになるためむちゃんこ利用してくる。

カウンセラーってぶっちゃけ大変だ。まずは信頼を得る。この点に感してはさっき言った通りやらかしたおかげでゲット。

相談のファイリング、心境変化の観察、言葉選び。リラックスしてもらうための個性使用。不眠症の生徒を癒しながら眠りにつかせるということもしてみた。効果は抜群だ!

そうして少し忙しめな数日だったが今日の午後は明日の入試に控えて、生徒たちは強制下校している。やっと訪れた空きコマで休んでいるんだが…静は冷たい。


「グータラするならこれをブラド先生に」

「雄英に問題児なんていないだろ。経過観察が必要なほど酷いやついたっけ?」

「あなたたちの世代ほどじゃないけど…血の気が多いヒーロー科の生徒がやり過ぎちゃうから指導しているんだって。ヒーローの本質を見せるため」


静もなかなか言うようになったものだ。間接的に俺をもディスってくる。俺は見本になれねぇな。


「うぃっす。いってくる」

「お願いしますね」


 * 


ブラド先生は生徒指導室にいることが増えたらしい。


「じゃあ、来年度はクラス持たないんですね」

「ああ、下の世代の教師が育ってきたってのもあるがな。学年主任を受け持つことになった」


相澤先生よりもしっかりと教師をしているイメージがある(熱血教師的な)ブラド先生。良い意味で生徒を贔屓している。

俺たちの時は悪い意味で贔屓してたけどな。A組とB組の扱いの差といったら。溺愛しすぎててちょっと引いた記憶もある。


「問題児がいるって聞いたんですけど、先生のクラスでした?」

「いや、違う。次3年になる奴だ。能力はあるんだが良くも悪くも先頭を切って出てしまう、特に最近はそれが顕著だ。あれじゃプロになって早死にしてしまう」


もう3年ということは一刻も早くその性格を矯正しなければならない。こういうことは俺よりもジーニストの方が向いている気はするが、頼ってる時間もなさそうだ。聞いたところによると、インターン先のヒーローも手を焼いているらしい。


「週明けにもその子見てみます。こういう場合説教しても無意味でしょうから…何故それに拘っているのかあぶり出しましょう」

「ああ、頼むよ」


自身の手帳に今後の予定を書き加える。ここまで真っ黒になった手帳は高校生ぶりかもしれない。プロになってからは日記程度にしか手帳を活用する暇がなかったもんな。


「いいところにいた!!カーミング!!」

「また騒がしいのが来た…」


そこに現れたのはプレゼント・マイク。このハイテンションは俺の傍にいても健在で、この人と実践したら良い感じに負ける気しかしない。


「相変わらず上がんねぇな、おい。そんなお前に特別任務を与える!」

「何すか…」


これは嫌な予感がする。めんどくさい仕事を与えられるかめんどくさい呑みに付き合わされるかだ。


「明日の入試で俺の代わりに実技試験の説明してくれ!」


予感的中の前者か。目立ちたがりの彼なら誰にも譲らなそうだし、何より急な変更過ぎる。


「マイク先生の方が適任でしょ?何でわざわざ」

「話題性のあるお前の方がリスナーたちもテンションぶち上がるっしょ?それに俺は明日特別任務が入っちまった」

「マジで急すぎ。俺の持ち場どーなるンすか…てかそれって本当に急に決まったこと……?」


ヤバイ、バレちった。みたいな表情の彼を見ていたら、言い忘れだったのかと怒る気も失せてしまう。ヒーローとしては一流なのに、教師としてはどこか抜けている。


「どーにかなるって!!んじゃ任せたぜ!!」


嵐のような性格だが、名前はひざし。なら、日差しみたくのどかにポカポカしていてほしいもんだ。

明日までにもう一度試験内容を見直しておかないとな。幸いにも今回の実技試験は俺たちがしたのとほぼ変わらない仮想敵との戦闘。

ま、どーにかなるってよりはどーにかせんといかんのだけどねぇ。

今日やることの優先順位をつけて保健室にへと戻る。空きコマだけど意外とすることあるなぁ。


 * 


「何でいんの」

「凪が来いっつったンだろ」

「言ってねぇよ!俺はここにいるって言っただけ!」


保健室のドアを開けると目に入ってきたアイボリーの爆発頭。何でいんの?

事件解決のために赴いて殴りあったあの日、最終的には仲直りの雰囲気になって言った言葉。雄英にいるから来たらいるぞって言っただけじゃないか。来いとは言ってない。いいように脳内変換しやがって。


「そんなこたぁどーでもいいわ。おいコイツ借りるぞ」

「ど、どうぞごゆっくりー」

「静!?おい!見捨てないでくれよォ!」

「いつまでも喚くな。いくぞ」

「し〜ずゥ〜」


成人男性を意図も容易く引っ張っていく姿は流石鍛えてるだけある。これでも体重70kgはあるんだけど。カウンセリングルームへと引きずりながら入っていく。

ソファーに我が物顔で座る彼は先日の怒りはなく至極穏やかだ。ただ俺はそうはいかない。


「で、いきなり何?せめてアポとってよ。明日入試で忙しいんだってば」

「話、すんだろ」


話をしようと言ったのは爆豪の方じゃないか。話したかったけど面と向かってこう…見つめられると、その目には弱いんだよ。


「茶くらい出せや」

「〜っ、ほんっとお前もう!」


緊張する方がバカか。にっがいコーヒーを入れながら最近の出来事を思い返す。

同窓会で再会したあの日感じたことは間違いではなかった。どう足掻いたって俺はコイツのことを忘れられなくて、それは向こうも同じで。

ケンカして、コイツは俺に会いに来た。


「何から話す?」

「まどろっこしい話はめんどくせぇ」


それは会話による平和的解決を端っから否定しているようなもんだ。


「お前、俺のことまだ好きだろ?」


見上げると向かい側のソファーで凪いだ爆豪。目が優しくて情熱的な炎を灯しているチグハグな表情だ。コイツ自信ありすぎだろ。俺が分かりやすかったのか?飲み会の帰りに抱く的なこと言われてけどそれのリアクションか?

どちらにせよ否定しても取り合ってくれないだろう。なら俺のすることは1つ。あの時はなれなかった素直な俺になること。


「……ああ、好きだ。平静でいられなくらい」


なにも取り繕っていないストレートな告白。すごくドキドキしてる。ビックリするくらい静かな声が出た。口から心臓は飛び出そうだし手汗もヤバイけど。


「お前は?」


俺は言葉にしたのに爆豪はだんまりとかフェアじゃない。こうして押し掛けてこんな質問をするくらいだから答えはわかっている。でも言葉にせず離れていったあの時みたいにはなりたくなくて、女々しくも言葉が欲しい。


「なぁ?爆豪」

「……俺も好きだ。気が狂いそうなくらい」


互いのことを想いすぎるあまりどちらも頭がおかしくなってしまう。いいじゃないか、おかしいの上等。それくらい好きなんだから。それくらい求めてしまうのだから。


「やっと、戻ってきた」


席を立って導かれる腕の中。躊躇なく抱き締めてくる腕からは今まで疎遠だったとは感じさせない暖かさを感じる。何でこんなに心がざわつくのか。

もし、あの時爆豪を離さなかったら。
もし、あの時素直になっていたら。

そんなのは今さら考えたって意味がない。

身長…こんなに差がついちまったんだな。肩に顎をのせて感じる筋肉質な逞しい身体。背中に伸ばした手に応えるようにすがると、抱き締める力が強くなる。少し痛いんだけど。

苦しい痛みを甘受する。求めちゃいけないと思っていた。重りになると思っていたから。コイツが飛び立つ枷になると思っていたから。

今は、爆豪がいないとまともに呼吸さえ出来ない。顔が少し動いて頬っぺたにキスをされる。


「そっちじゃねーだろ?」


目を細めて俺を映した瞳はすぐに閉じられる。


「言うじゃねぇか、凪」


嬉しそうな言葉と共に降ってきたキスに酔いしれる。ああ、爆豪はこんなキスをするやつだったな。下唇を好んで軽く噛んでくる。最初は吸われてた気もするけど痛くなるから怒ったんだ。そしたら甘噛みに変えてくれた。

負けじと上唇を噛むと自然と口が開いて舌が触れる。こうなったら舌を絡ませるしかないわな。

何分間それをしていたのかわかんないけど、すっげぇ気持ち良い。互いの存在を確認するように舌が優しく触れる浅いキス。


「んぁ〜ッ、ん”」

「っふ………舌出せよ」

「いや、っは、待てってッ」


唇を噛まれて後頭部の手からニトロが香る。これ以上やったら間違いなく止まらなくなる。理性が保てているうちにシャツをズボンから引っ張り出している手を止めなければ。


「この部屋完全防音なんだろ?さっきアイツが言ってた」

「だ、からって!流されるかァ!!」


「最高に、きもち悦い事しようぜ?」


マジで止めて!!


 * 


個性MAXで使って逃げました。
俺近いうち死にます。犯人は爆豪。これは遺言です。


【人間的】

行動や考えに、人間らしい配慮や思いやりがあるさま。
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