他責的日常


4.他責的日常


「今日は随分とお疲れだね」

「凪、俺を癒せ」

「その前に風呂入ってきてくんない?」

「ん」


仮免補習から帰ってきた爆豪と轟は疲れている様子だった。でもいつもと違うのはあまり傷がないこと。ロビーで上鳴たちと帰宅した二人を見かけたときも肉体的疲労というより精神的要因が大きいように見えた。


「二人とも大丈夫か?ケアいるか?」

「俺は今日はいい、これは必要な疲労だ」


爆豪は無視して部屋に上がったようだ。

補習組の帰りを誰かが確認するのは暗黙のルールになっていた。とりわけ爆豪とケンカしない切島やケアができる俺を中心に帰りを待つ。

いつもなら隣に座り茶を飲みながら5分くらいボーッとする轟も今日は遠慮した。彼はできなかったことができるようになった事が嬉しいようでその疲れを噛み締めている、まるで小さい子供のように。

さて二人の帰宅を確認したし部屋に戻るか。


「爆豪お疲れ」

「ん」

「使うか?」


部屋に戻るとすぐに爆豪が部屋へと姿を表した。大方ドアが閉まる音を聞いてやってきたんだろ。
ちなみに隣の部屋なのは相澤先生曰く両サイドにストッパーがいればいざというとき安心だからだとか。俺と切島は爆豪の飼い主じゃねぇんだけどな。


そして冒頭へと戻る。


「肉体的っていうより精神的に疲れた感じだな」

「ガキの世話したんだよ」

「お前何かとガキんちょに好かれるよなー」


軽口を叩きながらベッドに座る爆豪に個性を使うと眉間のシワがだんだんとなくなっていく。身体のあちこちから筋肉が抜けてリラックス状態になった爆豪はそのままベッドに沈む。


「おいおい、そのまま寝んじゃないぞ?」

「てめぇも一緒に寝ればいいじゃねぇか」


何の悪びれもなく目線だけこちらに向ける爆豪はとても眠そうだ。

「いくら付き合っててしかも個性のおかげで襲ってこないとわかっててもなぁ」

「こいよ」

「目で訴えるのやめろ、俺がそれ弱いの知ってるだろ」


甘えたなこいつはたちが悪い。横に寝転がるとギュっと抱き締めてきた。


「あー、癒される」

「個性で癒されてただろが」

「俺はお前本体がいいんだよ」

「っ…おい」


横から抱きついた爆豪の手が服の中に入りまさぐってくる。腹部を優しく撫でられるとつい腰が動いてしまう。さっきは襲われる心配が無いと言ったがあれは間違いだったようだ。コイツは俺の個性で沈静されていようがいまいが本能で動く。


「腰動いてんぞ」

「寝るんじゃねぇのかよ…っ、触んな!」


捕食者モードになった爆豪の手がだんだん上にきて胸をまさぐられる。胸をまさぐる手に気をとられていたが、それだけではないとネットりとしたキスはされるわ股間に膝を食い込ませられるわで理性が危ない。


「っん………………するの…?」

「ヤる」


補習で疲れているはずなのにさすがタフネス。誉めてないけどね!明日だって学校なのに一体今から何ラウンド気持ちよくさせられるんだろうか。

すっげぇ敵顔で俺のケツを犯しながらちんこを掴む爆豪は愉しげで、3ラウンド以降は記憶が曖昧だ。俺がキツいわ。


 * 


「カーミングー」

「おーいらっしゃい」

「ルコウソウから恋愛相談はカーミングが適任だって言われて来た」

「マジかよ、なんで」

「男の意見も女の意見も言えるからってさ」

「うん、間違っちゃいねぇ」


高校生という大事な青春時代に自分が口を出していいものか。しかも高校時代は世間一般的とは違う恋愛をしていたんだ。聞くかどうか悩みはしたもののカウンセラーとして話を聞かなければならないだろうという結論に至る。


「でその恋愛相談とやらは?」

「先生は恋人いたことある?」

「子どもの恋から大人の恋愛まで色々経験したよ」

「どんくらい?」

「俺もまだ若いからねぇ…付き合ったのは4人で長い人は4,5年とか。それも忙しくて自然消滅させてしまった」


あの時は忙しかったんだ。彼もプロとしてすぐに頭角を表し、自分も重要事件で何日も家に帰れないという日はざらにあった。自然消滅した後には2人と付き合ったが、付き合いたてで一番いちゃいちゃしたい時期でも俺はヒーローを優先してたからすーぐ別れちゃった。


「未練がましい訳じゃねぇけど…今でもアイツの面影は俺の周りにたくさん存在してて、まだ好きなのかなとか思ったりもするよ」

「今までの告白はどんな感じなの?」

「されることが多かったな、これでも高校の時はすんごくモテたんだぞ?」

「男の俺から見てもイケメンっつーか綺麗だからそれはなんとなく想像できる」


高校時代の恋愛事情は先月行われた同窓会であらから掘り起こされていたから思い出すのに苦労はしなかった。


「毎週告白されてたかな、男女問わず」

「男からも?」

「認めたくないけど俺、女顔だからね」

「ん、そっか…」

「…実際に男と付き合ったこともあるよ」

「!?」


煮え切らない相づちに発破をかけたら正解だったようだ。男女の恋愛相談だったら静の方がアドバイスはもらえただろう。彼女が俺にと言うからには何かしらの理由があるとは思っていたが…


「カーミングの名の通りカミングアウトすれば…
別に男だけが恋愛対象っていうわけじゃない。恋愛対象は女だと思ってたし、今でも女とヤるし。あ、生徒にこの発言は不味いか…まいいや。
野郎に告白されたときもそんな理由で断ったんだ。でもむちゃくちゃアプローチしてきて落とされた。
男が好きってよりもソイツ自身を好きになったんだ」

「変なことじゃない?」

「人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるんだぜ?今の時代、恋愛は男と女がするものという概念は浅い。好きな人とするもんだと俺は思うがね」

「……」

「どう?」

「…俺、好きっていうか気になるやつがいるんだ。最初は友情だと思ってたんだけど、女子たちが恋バナしてるの聞いて…俺のこの感情がわからなくなった」

「うん、」

「気が合うし、一緒にいて楽だ。できればアイツの一番近くは俺がいいって思うし、女から告白されてるの見てすっげぇ嫌だった。取られたくねぇって思った、でも、、、
でも…これが恋でアイツに好きだと伝えて嫌われるのはもっと嫌だ」

「君が気になる子は、好きだと伝えて君を邪険にするようなクソヤローなのか?」

「たぶん、違う」


「…少し俺の話をしていいかな?

長く付き合った恋人との話なんだけど、自然消滅したっていったよね?あれ、すっごく後悔してるんだ。

プロヒーローになって忙しくて任務によっては電子機器がダメなところで長期ってのもあった。一言長期任務で連絡できないって言えば不安にさせることもなかっただろうけど。

自分の家にすら帰る時間なくて少しでも一緒にいられたらと同棲も考えた。けどそれが決まる前に互いに離れていった。

連絡もまともにせず時間も割けない。連絡してもアイツも忙しくて会えなかった。会いたいとも言わなかった。

いや、言えなかった。その時は言っちゃいけないと思ってたんだ。

本音を言っていれば今とは違った未来になったのかなってたまに想像する」


「普通の恋愛してねぇんだな、個性が沈静なのに自分が落ち着いて考えられてねぇじゃん」

「うるせぇよ、俺だって万能じゃねぇ。万能じゃないから最善を目指すんだ」

「カーミング、たぶん俺アイツのこと好きだ。すぐは無理だけどちゃんと好きだって伝えるよ。ダメでも最高の友人になる」

「焦るなよ、じわじわと責める捕食方法もあるからな」


生徒には偉そうなこと言っても俺はまた自分の気持ちを素直に言えないでいる。先日の同窓会でアイツへの気持ちは薄れているなんてことはなくて、それは向こうも同じだった。一言…好きだと伝えれば済むことなのに。しがらみを気にしてしまう。

互いにヒーロー活動以外も視野を広げてプライベートの時間も考えることができるようになった。俺も教員とヒーローの効率のよい回し方もすぐに会得することができたから、心に余裕はある。


あとは自分だけだ。

あの時みたいに自分の環境や相手の環境に理由をつけて逃げることなんてもうしない。何処で間違えたかなんてわかんねぇ、だから今度こそ最善を選びたい。


【他責的】

思いどおりに物事が運ばない時に、それを自分以外のもの、状況や他の人などのせいにしようとする傾向。
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