実証的日常


2.実証的日常

「みんな!遅くなってすまない!」

「ひ、久しぶり!!」

「美しき、再会」


ヒーロー活動をしていた飯田、緑谷、常闇が合流した。


「あれ?峰田は一緒じゃねぇの?」

「峰田くんは頭皮からの出血が多くて処置が長引いてるんだ!」

「すぐ来たがっていたがな」

「建物が崩れないようにモギモギでくっつけてくれたんだ、おかげで救助活動しやすかったよ」


これで今回来れていないのは、海外へ災害復興支援へ行った瀬呂、砂糖、口田、八百万。都合が合わなかった尾白、障子。たぶん来る気はないのであろう爆豪。


やっぱ、会えないか。


「そしてみんなにサプライズゲストだぞ!」

「うおーー!爆豪じゃん!」

「大人数の集まりにはめんどくさくて来ないで有名な爆豪だー!」

「うっせぇ、クソモブどもが」


「(マジかよ)」


高校時代よりいくつか丸くなり、暴言は健在だが刺々しさは鳴を潜めている。

最後に彼を見かけたのはたぶん2年前の現場。しかも後ろ姿だけだった。

つくづく内心穏やかじゃなくなる。
爆豪、爆豪だ。

久々に顔を見て感情が揺れた、顔も歪んだかもしれない。凝視していたせいで目が合う。


また、あのときに戻りそうだ。


 * 


俺と爆豪が付き合ったのは高1の初夏だった。

俺の何が良かったのかわからないが体育祭直後いきなり「俺と付き合え」と言い出した。恋愛対象が女だったから無理だと言ったがアイツは俺にしかわからないアピールしまくりやがって見事にすぐ落ちた。たぶん切島はわかってたはずだけど。


切島曰く『爆豪の心の拠り所』らしい。

爆豪に直接俺のどこが良かったのか聞いたら『顔』と言ったからな…


俺がアイツのどこに惚れたかって?

一言で言えば素直じゃないところ。切島の言うように俺はアイツの心の拠り所になっていた。それは爆豪も無意識のうちに。指摘すると真っ赤になるくせしてその顔を俺にさらし続ける。離れようとしなかった。そういうろころが可愛くて、いいなって思ったんだ。

アピール時期にも無理してカッコつけようとしたり、極めつけはあれだ。職場体験の8:2坊や。
俺には頑なに見せようとせず視界を被ってきやがった。
そんときに耳元で「情けねぇ姿見せられねぇ」とか恥ずかしいんだなと可愛い理由を聞いちまってこっちまで赤くなったもんだ。

俺の顔に惚れたってのも間違っちゃいねぇがほかにも理由はあると踏んでいる。


懐かしい、なぁ


「爆豪こっちこいよ!」

「そーだよ悠揚くんおるよ」

「癒しの側で荒らんだ心を浄化してもらえ」


お前ら呼ぶんじゃねぇよ。


「そ、の前に俺は飯田のところに礼言ってくる」

「律儀かよ、やっぱいい男だなお前!」


逃げるために飯田を言い訳にした、ごめん。緑谷と轟と談笑していたところに顔を出す。


「飯田、企画ありがとな」

「いや、俺もみんなの話を聞きたいと思っていたからちょうど良い機会だと思ったんだ」

「インゲニウム事務所はどうだ?」

「兄のすごさを改めて感じている。ところで悠揚くんは雄英で働くと聞いたのだが」


先ほどみんなに話した内容を途中参加の奴等にも話すと緑谷はお得意のブツブツが始まった。


「悠揚が教師ってエロいな」

「!…峰田来たのか」


治療が終わったらしき峰田も参加してエロを全快させる。さすが性欲の権化と言われる男。


「女子に嫌われるぞ、お前」

「うっせぇメス顔イケメンに言われたくねぇよ!」


うん、峰田もいつも通りだ。ほっとこう。


「悠揚そろそろ戻ってきてー。んで爆豪なだめてくれよー、ご主人いなくて威嚇する犬だってばこれー」

「誰が犬だ!!アホ面!!!」

「飼い主になった覚えはないんだがな」

「ンだと凪てめぇ」


こんな形だけど俺の名前呼んでくれる。名前呼びは体育祭終わってからだけど、普段はオイとかてめぇとかで俺の名前を呼ぶのは専ら体を重ねてるときだった。その点俺は爆豪呼びだったな。

抱きたい、抱かれたい、その身体に触れたい。たくましい腕に包まれていた、…なに考えてンだ俺は。頭を振りいつもの平静を呼び覚ます。と逆に酔いが回った。


もう4年も前に終わった事だ。凪ぐんだ。


「はいはい、ばくごーくん飼い主戻りましたよー」

「調子乗ってンじゃねぇーよ!!」

「落ち着けって」


頭をぽんぽんしてやれば大人しくなる野犬、もとい爆豪。


「くそがっ」

「ちいせぇこえでも聞こえてんだかんな」



手懐けてんのはあながち間違いじゃねぇな。

落ち着かねぇー、ちっとも凪げねぇ。
そのくせ爆豪は少し気立っている感じもあるが飄々としててなんかムカつく。


「ねぇー凪ちゃん!二次会は女子の所にこなーい?」

「華が欲しいと思ってね」

「俺男だってば、」


女子が俺を女子会に入れたがっていたが、俺は男だ。高校の時にさんざん級友に性格が良すぎて女友達だと言われていたがそれは健在らしい。

曰く、髪の毛長いし、身長ヤオモモと同じくらいだし、肩幅狭いし、筋肉柔らかそうだし、手がむっちゃ綺麗だし、女顔でメスのようだと…止めて、泣いちゃう。


髪の毛は切る時間がないだけ、身長は175pあるわ、ヤオモモがモデル体型なんだよ、筋肉は柔らかい方が怪我しねぇんだよ、体型や手は母親の遺伝だし近接しねぇから、顔も母に似たんだよ…

ブー垂れた芦戸を筆頭にブーイングの嵐。
てかみんな酔って好き放題言い過ぎだわ。


2次会は男子数人で個室の居酒屋に行くことになった。明日早番の者や今日の疲れがあるものは帰ったりで、峰田、上鳴、切島、爆豪、俺というちょっと危険なメンツだ。せめて瀬呂がいれば…バランサー…


「んでさー、今付き合ってる子なんだけど別れそうでー」

「お前の男らしくない態度に愛想つかしたんだろ」

「軟派な男との将来は考えられねぇんだよ」

「二人ともひでぇ!」

「さっさと別れちまえ!!」


上鳴とはたまに呑みに行くけどホイホイ彼女変わるから新鮮味がない話を聞きながら正直なことを切島とぶっ刺す。


「切島は今の彼女とどうなんだよ」

「結婚してぇとは思うけどまだ甲斐性がねぇからなぁ…独立する前にしたかったんだけどよ」

「お前もリア充かよ、そんで悠揚お前も敵だ!」

「こいつも独り身じゃねぇか?」

「この顔をよく見てみろ、イケメンだろ?オイラ見ちまったのさ、こいつがラブホに入るところを3回!しかも全員違う女!!セフレか!?」


「あー…one night love ってやつ?が多いかな。俺ヒーローってこと言ってないし、顔出ししてねぇし…上鳴が彼女変えるペースよりしてねぇよ」

「性事情は散らかってんのね…」

「誘われたから行くだけ、出すだけ。セックス事態はそんな気持ちよくねぇけど一人でするよりは女とって感じ」

「男に掘られそうなメス顔のくせしてやることヤってんな〜」

「あー、確かに綺麗な顔してるよな」

「爆豪みたいなのに掘られんじゃねぇのか!?な!」


今までほとんどしゃべっていなかったし振りもしなかったのになぜ、今。爆豪は話をしっかりと聞いていなかった様子だったが、


「凪は抱ける」


静まり返る男たち…
居酒屋特有のガヤガヤした喧騒が外から個室を侵食する。


「だ、だよなーやっぱメスが似合う」

「で、でもでもさ悠揚は誰よりも性格は男らしいぞ!」


みんな赤くなって苦し紛れの言葉を発する。


「う、うるせぇな!そんなことより緑谷と麗日は結婚秒読みだろ?」

「マジで?」

「気づかなかったのか?お揃いの指輪だったぜ」

「お前そういうのに気がつくからモテるんだよなぁ」

「イケメン滅べ」


無理矢理話を緑谷たちにスライドさせた。間違った情報ではない。麗日は右手薬指、緑谷はチェーンに通してネックレス。間違ってはいないのだ。


"凪は抱ける"


爆豪のせいでムラムラしてきた。

過去の情事やあの眼差しを思い出して発情するとかどんだけだよ。


「やべぇ、セックスしてぇ」

「メス顔悠揚の爆弾発言!穏やかじゃねぇ!」

「イケメンですぐ女食えるからって調子のってんじゃねぇーぞ!」

「おいおい、大丈夫か?酔いすぎか?」


「(声に出てしまった)…溜まってんだよ」


発散したい。酒飲んだら萎えるはずなのにな。


「そろそろ終電だし帰るか」

「明日も仕事かー」

「オイラ休みー」


みんなが出ると同時に俺も立ち上がる。あー、いつもより飲みすぎた。ちょっとふわふわする。


今日はちっとも穏やかになれなかった。帰りに女引っかけて一発するか…


「凪」

「んあ?」

「シてぇならいつでも呼べよ、時間作ってやる」

「は」

「近いうちメスイきさせてやるから待ってろクソ凪ちゃんよォ」


ん?


「ごめん、萎えた、先帰る」


捕まらないようむちゃくちゃダッシュで帰った。
酒で酔ってるはずなのに、考えなしに走れた。


たぶんこの時俺は、

経験上この不敵に笑う男からは逃げられないとわかっていたのかもしれない。


勃起したままじゃ電車乗れねぇよ…


結局歩いて4駅帰った。


【実証的】

思考だけでなく、体験に基づく事実などによって結論づけられるさま。
- 3 -
[*前] | [次#]

小説分岐

TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -