12.遊戯的日常
久々の平日休み。
今年も雄英体育祭が大いに盛り上がった。各学年ヒーローからの指名のメールが届き、俺は3年の仕分けを担当した。
相変わらずの2徹だったけどね!?
3年は来年からプロの現場で活躍するから大事なイベントだ。今まで指名がなかった子にも入っていて、無事全員道は拓かれた。後は、彼ら次第。
2日間の仕分け作業に次いでそれにまつわるカウンセリング。それから昨日まで割と慌ただしかったが、今は職場体験やインターンでヒーロー科は空っぽ。
それに伴って俺は休み!しかも2日間!!他の科たちはいるけど休みだ!ごめんね!!
とは言っても、休みの日に何をするかだ。番組の収録もない。同期たちは仕事かなー。
事務所を持っている同期は絶賛職場体験受付中だから何かと忙しいかも。
爆豪も仕事だと言っていたな。事前に休みを教えろと言われたけど、昨日いきなり校長に言われたんだから仕方ないじゃないか。彼としては一緒に過ごしたかったらしい。
外出の制限もなく飯でも作りに行ったろうと思ったけど……アイツん家の鍵持ってないし、たぶんセキュリティがしっかりした家に住んでるだろうから入れないなー。
誰か…んーまずはフッ軽の上鳴にでも聞いてみるか。ヒーローとタレントと忙しいかもしれないけど、晩御飯くらいだったら来てくれるかも。
*
<やっほアホ面くん。ヒーロー頑張ってますかな?>
<やほやほ、メス顔。最近は敵も落ち着いてるから出動要請は比較的落ち着いてんかなー。どうした?お前から連絡とか珍しいじゃん>
<いやーね、明日から2日休みもらったからとりあえずフッ軽のお前に連絡した>
<お、明日?俺も休み。切島と瀬呂も休みで飯行こうぜーって言ってたから来いよ>
<おー行く行く、どこ集合?>
<11時に港区!!>
<おっけーありがとー。じゃ明日!>
こんなに上手く行くものだろうか。約半年ぶりのプチ同窓会。しかも仲の良いメンツだから断る理由なんてないし、むしろありがたい。
そして翌日。
「久しぶりー!」
「おーきたきたメス」
「メス言うなって」
「久しぶりだな!」
「うん。あれ、上鳴は?」
「いつもの」
待ち合わせ場所のオフィス街の一角。そこの割りとおしゃれで個室も完備した飲食店。瀬呂セレクトらしいお店はセンスの塊だ。しかも肉ッ。
たしか彼はここら辺の区域が管轄だったっけ。個性もオフィス街なら効果的に生かせる。
切島は今日は髪の毛オフで一応人目を気にしているみたい。服も、ジョギングしてきました!みたいなやつ。
んで上鳴はいつもの遅刻。大方髪型が決まらないとかで遅れてるんだろうな。
「やっほー!今日は人気ヒーローの烈怒頼雄斗とセロファン、カーミングそしてチャージズマでランチでーす」
アクションカメラ片手に現れた上鳴は妙にテンションが高い。なのに瀬呂の顔は撮さないという高等テクニックでカメラをまわしている。
「何?また企画か?」
「そー!ヒーローの休日ってやつ」
「休み合わせたのってお前の撮れ高のためかよ」
「何で俺は昨日こいつに連絡したんだ…」
すんごい良い笑顔で進行するけれどヒーローの休日ね…遊び呆けてクレームとか来ないかな?
働き方改革ってね。ヒーローだって休みがほしいんだよ。
「ファッションチェック!!!」
「うぉ、唐突」
上鳴がプロデューサーとなって俺たちを一人一人撮す。ご丁寧に全身、上半身アップ、小物アップいろんなパターン撮ってくる。
めんどくさっ。
瀬呂は昔とあまり変わらずエイジアンでラフに着こなしている。
切島はさっきいった通りスポーティ。
俺は黒のスキニーにかっちり目のカラーシャツ。ピアスと靴は明るいネイビーで合わせている。あと顔バレしてるからハットとサングラスまでしている。至極めんどくさい。
いつもシャツだから、逆にそれ以外の私服がわからん。ピアスも普段つけている通信機付のものではなく小さいスタッドピアスだ。
で上鳴も(仕方なく)撮影してやる。VネックTシャツに短パンであざとさを演出。
「遅れたからここの会計お前持ちな」
「企画に付き合ってやるんだから当然お前な」
「……どんまい、アホ面」
「お前らマジでひでぇ!」
変わらない愛されいじられキャラは大変だなぁ。あんなこと言っていながら全奢りとかはさせないんだよなぁコイツら。
店内は外装と同じくおしゃれだ。個室も思ったより広く防音もしてある。素晴らしいな。
食事の間もカメラはまわしたいとのことなので、瀬呂は映らないところに座ってもらいその隣に上鳴。正面に切島と俺になった。
「今日は休みだけど…酒は無しね」
「おっけー」
「「「「かんぱーい」」」」
仕事柄酒の摂取にはかなり気を使う。俺は専ら翌日が休みの夜にしか酒を飲まない。例えば昨日の夜。
でもこの肉には赤ワイン飲みたかったな……ローストビーフ……クソ旨そう。
「メスが草食ってる」
「メスじゃねぇ。それと草じゃなくて水菜」
食事の際サラダから食べるのは癖になっている。血糖値の上昇を緩やかにするため。
こいつらと一緒にいたらわざわざ俺が話を切り出さなくても、上鳴が話題を提供してくれる。コンプラに引っ掛かることは避けつつ、近況報告で盛り上がる。
「つーか!!!お前!!!!!」
「なに?」
素面であるはずなのになぜそんなにテンションが高いんだ。俺を指さしながら興奮する目の前の二人。一応個性を使って落ち着かせるけど噴気した頬は赤いまま。
「高校時代ずっと恋人いたってどういうこと!!?番組の後すぐ帰っちゃうしぃ!!」
「そーそーそれ聞きたかった。で、誰?」
「そんな素振りなかったからなぁ。で、誰だ?」
「……なーいしょ〜」
番組で共演して爆弾を落とすだけ落として帰った俺に不満らしい。
「は??いいじゃん!じゃせめて特徴だけでも!!」
「どういう系?」
「……綺麗系」
爆豪の顔面は綺麗だ。肌も髪も瞳も心も。
「すっごく真っ直ぐで」
相対評価なんか気にせず我が道を行く。
「料理も上手」
久々のタンポポオムライスは旨かったな。
「斜め上を行く愛情表現する……みたいな?」
「メス顔のくせに…」
「だから、それ関係ないじゃん」
そして盛り上がると言ったら、この間あった体育祭。彼らも関心はやっぱりあるみたいで、高校時代の話題を含めつつ思い出に浸る。
「な?今のお前だったら優勝できんだろ?」
「インターバル無しだとキツい。マックスは滅多なことがない限り乱発しないし」
「決勝トーナメントの初戦轟はねーよなぁー」
「相性とか考えたら、悠揚と最悪だから戦いたくなかったわ」
決勝トーナメントに進んだことがある4人。2年次からはB組も力をつけてきていたから、俺たちの代は稀にみる混戦だった、らしい。
自分たちの過去の栄光に縋るのではなく、見据えるのは未来の事。
「今の子たちはすごいよ。個性が複雑化する中でそれを自分のモノにしようとしている。むっちゃ優秀」
「今年も盛り上がったもんなー」
「だよなー。俺たちが3年の時あんなに優秀だったかって聞かれたら首縦に振れないわ」
「俺さ、今でも先生たちにお前たちの世代は問題児ばっかりだったって言われるんだよ」
「否定できないからしゃーない」
ケラケラと「手がかかる子ほど可愛い」っていうじゃん?とか言ってみるけど実際のところ、先生方には本当に迷惑かけたよなぁ。
そんな手のかかる子どもたちも今ではプロの最前線で戦う奴らばかり。しかも切島は独立の話が出ているみたい。
「でよ、フォーマルなの着る機会があんだけどさー……どっか良いところない?」
「俺と爆豪が世話になってるところ行く?個性商業登録してるから仕事も早いよ」
「俺も作りたいわー」
ということでやってきました、あなたの装い承ります”ユアーズスーツ”
カジュアル、フォーマル、喪服など様々な種類のスーツを扱っている。個性の商業登録をしているスタッフが複数人いて個室完備。完全プライベートも対応してくれる。
ヒーローだと暴露する前からここにはよく来ていた。ちなみに爆豪も気に入っているお店だ。
オーダーメイドのシャツじゃないと胸のボタン弾け飛ぶらしいからね。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます悠揚様。本日は……お連れ様ですかね?」
「広めの個室でコイツに一式合わせて欲しいのと、俺もシャツ2枚追加でお願いします」
「かしこまりました。もう一人スタッフをつけますね。少々お待ちください」
洗礼されたスタッフによる丁寧な接客。相変わらずレベルが高い。案内された個室には俺のものと思われるシャツが複数種類。
「それでは採寸いたしますので、こちらへお願いいたします。悠揚様はどうされますか?」
「俺はいいよ、前回と同じサイズで…ボタンダウンシャツのミルクティーと、濃いグレーのお願いします」
「お前慣れてんなー俺こういうところ初めてだから緊張するわ」
「ある程度収入が増えてから来るようになったんだけど、雄英勤めになってからは月2くらいで来てる」
カウンセラーとしても仕事をし始めたころ。ヒーローコスチュームでも良かったんだけど、和装コスでカウンセリング?と心操に指摘されてからカジュアルスーツで行うようにしたんだ。
そのころからここには世話になっている。
「俺も頼んでいいですか?肘の部分で合わせようとしたら中々ねー」
「では私が担当致します」
切島に引き続き瀬呂も採寸してもらっている。俺と上鳴は待機だけど、この空間にいるだけで楽しい。
ヴヴブ
スマホがポケットの中で震えた。休みだから連絡は基本ないはずだけど…爆豪か。
<今どこだ>
<ユアーズでシャツ見てる>
<午後休とった>
<マジかー、今ね上鳴たちといるんだけど来る?>
<誰が行くか>
<ま、いいや。夜にはそっち行く>
<飯はなんか作っとく>
<おっけ。着いたら連絡するー酒も持ってくわ>
アイツが所長だからある程度の融通が利くんだろう。午後休とってくれたのは嬉しいけど
こいつらとの約束が先だったから抜け出すなんてしない。
家にいてもトレーニングとか真面目かよ。酒は……赤ワインがいいなぁ。さっき飲めなかったからねぇ。
爆豪が料理作ってくれるのか。なにそれ、酒奮発しちゃおうかな。日本酒も飲みたいわ。
「誰?誰?噂の恋人か??ニヤついてんぜ」
「爆豪だよ。酒飲むかーって話しててさ、飯作ってくれるって」
「それ今日?マジ?俺もアイツの飯食いたい」
「あー……怒られるだろうけど行く?いい酒買っていけば許してくれるかもよ」
「っしゃ!この後の予定決まり!」
勝手に進む今後の予定。フィッティング中の二人には何も聞いちゃいないが、たぶん大丈夫だろう。
爆豪もなんだかんだ許してくれると思う。
「で、お前は何撮影してんの…お店に許可とった?」
「とった!そういや爆豪もここ会員だったんだな!」
爆豪は俺が着ているシャツを見てここのだと気づいたらしい。本当にたまたま。アイツとは割かし服の趣味も合うし、高校時代は着まわしていた。今はサイズの差ができてしまってるけどね。オーバーサイズって誤魔化せば…爆豪のは着れそう。
「お二人にはご贔屓いただいているんですよ」
「接客も商品もスピードも良いからね。俺がヒーローって分かってからも接客変わらなかったんだよ。だから、こっちから聞いたんだ」
「なんて?」
「聞かないんですね、って」
「したら?ホストかと思ってたって?」
「”体つきからヒーローかモデルの方だと思っておりました”とお応えしましたね」
そうそう。そんで接客レベル高いなーって改めて思い知らされたんだ。ヒーローだろうがモデルだろうがホストだろうが。
お客様はお客様で、自分たちのすることは何も変わらない。そう言われたんだ。
彼らの対応に切島や瀬呂も満足しているよう。切島は2セット購入して、瀬呂も一式買っていた。
すかさず上鳴カメラがスーツ姿の二人を収める。うん、二人によく似合っているわ。
「この後さ!爆豪ん家に突撃するんだけど!行かね!?」
「休みなの?前聞いたら仕事だって言ってたんだけど」
「午後休とったんだって。飲もうって話を前にしててさ、それでさっき連絡貰った」
「お、じゃあアイツん家で体も動かしてぇなぁ。休みでも動いてないと落ち着かねぇ」
今日購入したものは後日郵送してもらうことにして”ユアーズ”のスタッフさんたちにお礼を告げて次の目的地へ。
ただいま時刻は15時22分。
れっつごーとぅーばくごう家!!
【遊戯的】
物事を遊び気分で行うさま
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