実験的日常


11.実験的日常


目が覚めるとまだ陽も上っていない時間だった。それなのに爆豪は顔を洗って、起きてます、の顔をしている。

昔から早起き得意だったよな。ロードワークも毎日欠かさずしてたから、もしかしたら今日もしてきたのかもしれない。


「おはよ、早いな」

「どっかの寝坊助とはちげぇーんだよ」


おはようの返事の代わりに額にキスが落ちる。甘い甘い朝だ。

今度こそ帰り支度を済ませて仕事へと向かおうとする爆豪は至極快調そう。


「具合は?」

「ふはっ、彼氏かよ。何ともねーよ」


若干身体が重い気はするが下半身の痛みはなく、日常生活に支障はないだろう。気遣いがくすぐったい。


「バーカ、彼氏だわ」


穏やかな空気は俺の個性のお陰か。それとも二人の触れ合う柔らかい吐息のせいか。

彼氏の背中を見送り、今日からまた一週間がはじまる。


 *


 *


「テレビ出演の依頼ねぇ」

「出てみたら?」

「出ても良いことないって、きっと」

「凪さんのかっこよさが世間に伝わる!」


静さんやい。そんなガッツポーズして言わないでもらえます?

テレビに出たらそれこそ時間がなくなってしまう。カウンセリングスケジュールもまぁまぁ埋まってるし。


「マイク先生だってヒーローと教師とラジオDJをやっているじゃない?夜の時間だったら…」


それって俺に死ねって言ってます?

今来てる出演依頼3桁余裕でいってるんですけど。

毎日ではないにしろ…みんなどうやってんだよ。今来ている出演依頼は大体バラエティだけど…初めてのテレビで一人って怖いじゃん?

芸人さんと何を話せって言うんだよ。話の切り口としては…あの事件に関してだろうな。


「できる自信がないんだけどな…」

「大丈夫!顔が良いから!」


静さんやい、上鳴と同じこと言うんじゃありません。


「テレビで凪さんがみたい!できるわよ!Plus Ultra!」


校訓をそんな風に使うんじゃありません…


 *


 *


「大丈夫!メス顔は黙ってても映える!」

「お前もう黙ってよ…これでも緊張してるんだからさ」

「悠揚くん!カームダウン、カームダウン」

「お前ら、うっざ……」


やって来ました、初テレビ出演。お分かりでしょうか?俺の傍らには同期がいます。

はい、上鳴と緑谷。改め、チャージズマとデクです。3人を同じ控え室にしてもらって作戦会議をしてるんですが何も実にはなりません。はい、残念。

テレビ出演、しかもバラエティだから堅くならなくていいもののそれなりに人気のある番組で緊張している。企画書の中に彼らの名前も候補にあったので全力で協力を仰いだ。結果がこれ、残念!!


「そう言うなって!どっちにしろ数字は取れる」

「はぁ……」

「お三方!そろそろ出番でーす!」

「「はーい!」」

「はーい………はぁ」


スタンバイか。え、何?登場するときポーズ決めるの?知ってるけどさ、テレビで見ているのと自分が実際にするのとは全然違うじゃん。


「今日は大人気ヒーロー2時間スペシャルでーす」

「ゲスト!かっっっっっっもー…、、、んぬ」

「「「「「キャー!!!」」」」


床が右へスライドしてライトが当たる。眩しいなぁ。ライトの向こう側からは音割れ不可避な甲高い歓声。いや、悲鳴だ。これって個性使って落ち着かせても良いんですかね?


「今話題の大人気ヒーローの皆さんでーす!!」


軽く頭を下げて前の芸人さんたちの近くへと寄る。うわー、テレビで見てた人たちだ。すげぇ。アシスタントとして元アイドルのぶっちゃけガールと突っ込みハーフママタレント、肩書き多いな。


「改めましてご紹介します。バラエティでもお馴染みスタンガンヒーローチャージズマ!テレビ初登場!?話題が冷めやらない君主カーミング!トップと名高いヒーローデクでーす!」


俺の紹介文で君主ってつけるの恥ずかしいからやめてほしい。別にドSでもなんでもねぇよ…

そして上鳴の詳しい経歴が紹介されている。バラエティに出すぎてタレントヒーローって言われてるじゃん。まぁ需要があるから使われてるんだろうけど。

そして俺の番。


「今までメディアに全く出ていませんでしたが、その事件解決率はトップ!そして先日カメラの前に姿を見せた瞬間からフォロワーがうなぎ登り!ドSな君主カーミングでーす!」

「「「「キャーーー!!!」」」」

「バラエティ初登場にこの番組で良かったんですか?」

「いやー、ね?本当はテレビ出演しないつもりだったんですけど。同僚に力説されてここにいます……一人じゃ怖かったんで同期と一緒に出られるんで逆にオファーいただいてありがたかったです」


静の熱烈(?)な説得により番組出演への意思を決めたんだけど、これも人生経験かな…

俺が話題になってるのも今のうちだろうから、稼がせていただきますよっと。


*


『仲良い同期を比べてみました』

[レッドラ、セロファン、爆心地]
[特になし]
[ショート、ウラビティ、インゲニウム]


「えー、仲の良い同期についてなんですけどカーミング。特になしってどういうこと?友達いなかった?」

「いますいます、人をボッチみたいに言わないでくださいよ。んー皆と仲良かったんですよ」

「高校の時は俺らとよくつるんでたよなー?」


爆豪派閥、爆豪一派といわれるような感じだったと思う。つるんだ気はないが自然と騒がしいやつらが集まっていて、そこのストッパー兼浄化役として一緒にいた。


「でもショートとプライベートで牛タン食べに行ったんでしょ?仙台まで」

「あと何故かクラスの女子会にコイツが招待されて行ったらしい」

「何でそれ知ってるの??」


轟とは同窓会の数日後、俺が正式に雄英に勤めることになってから事件の要請で2日間タイアップをした。それで飯に行こうかとなりその日に実現したということがあった。

女子会は芦戸の熱烈アプローチにより根負けして行ったな。これも同窓会で華を近くで愛でられなかったから不完全燃焼がなんとかかんとか言われて。

ヤオモモもその時には海外から戻ってきていて女子会は大盛り上がりだった。普通に楽しかったわ。


「……聞きたいことはいっぱいありますが……ヒーローデクはこの3人とテレビで共演してらっしゃいましたね」

「そうですね、入試から知ってたり…本気で戦ったりの仲なんで……」


仲の良い同期か。ちょっと前まで頻繁に会っていたのは心操かなぁ。現場でだったらしょっちゅう組んでたからね。


「ずっと気になってたんですけど、爆心地と不仲説出てますけど……実際のところどーなんすか?」

「あー……別に悪くないですよ?」

「ぶっちゃけ!アイツが一番気を許してるのカーミングなんすよ」

「「えー!?意外!!」」


そんな意外かな?離れていた期間はあったけどそれまではよく一緒にいたんだ。高校時代はそれこそ毎日一緒。休みの日でさえ。人前でベタベタするようなことはなかったけど、仲の良さは10人中10人全員が良いと判断するだろう。


「個性柄あの狂犬も俺の前じゃチワワなんでねぇ。そのせいか寮の部屋隣だったんですよ。暴れないように監視役」

「チワワwプライベートで会ったりとかは…?」

「3,4年くらい?連絡とってなかったんでないですよ。勉強にヒーローに忙しかったんで」

「そんなにかよ!?20過ぎてから粗野が戻ってきたのはそのせいか〜」


怖くて連絡できなかった、ってのが本音だけどね。これからは粗野も鳴を潜めて優しい爆豪くんが出てくるんじゃない?知らないけど。


「今日一番聞きたかったこと聞けてよかった〜」

「全国民の疑問が解決されましたよ!」


そこまでか?そして流れは緑谷と爆豪の不仲説。説っていうか十分立証されてる。良いライバルだけど仲はむっちゃ悪い。

にしても上鳴と緑谷よく喋るな。流石だわ。


 *


『高校時代の恋愛について比べてみました』


[1年の文化祭後はモテた]
[毎週金曜日は告白の日]
[特になし]


「っちょ、俺が回答したのと違うんだけど」

「俺がタレコミしといたZE!」

「アホづらぁ……」


本来であればあのフリップには[そこそこモテた]と入るはずなのに上鳴のせいでややこしくなってしまった。


「メス顔のくせして性格はSっ気あるからむちゃんこモテてたんすよねー。で、学校中の女子はコイツに落ちてた」

「いや、そんなわけないから。俺よりショートと爆心地だろ。それに卒業前はデクも後輩たちに人気だったよね?」

「ぼ、僕はモテるというより……単純にヒーローとして評価してもらってただけだから」

「お三方は芸人の俺らからしたらむちゃくちゃモテてますよ!!!」


他人の恋愛事情はあまり知らないから深いコメントはできないが、俺たちのクラスはみんなある程度はモテてたと思う。轟と爆豪は高1でファンクラブできてたしね。


「あんなに告白されてんのに誰にもOK出さなかったのマジで理解できねぇわ!!」

「いやぁ………恋人いたし断るよ」

「「「は?!??」」」

「「「こいびと!??!」」」


何故口に出してしまったのかはわからないけど、きっと彼氏面したアイツに触発されたんだ。


「何それ!!俺知らないんだけど!!!デク知ってた!??!」

「僕も知らない!!!誰!!?いつから!?!」


芸人さんたちほっぽりだして興奮するコイツらに個性使ってやろうかと思ってしまう。

特に凄い剣幕で捲し立てる上鳴はこれが撮影だと忘れているみたいだ。完全にプライベートのノリで叫んでくる。


「あー……高1の夏?前かなぁ?」

「はぁ!!?じゃあお前高校3年間ずっといたわけ?!ふっっざけんなよメス顔!!!1年の体育祭決勝トーナメントにすら残ってねぇくせに!?」

「いや、メス顔関係ないじゃん…?」

「体育祭の後か…付き合う可能性があるとしたら雄英生だろうけど…寮になってからそういう素振りは一切見られなかったしヒーロー科は忙しくて恋人と一緒に過ごす時間すら割けないしまず理解がないと3年間も付き合えないよね…だったら同じクラスかB組の人だろうけど…うちのクラスでそういう関係があったのか?彼は女子全員と仲が良かったしB組のあの物間くんとも仲がいいからそれは判断材料にならないな…ブツブツブツ……」

「おーいデクー?これバラエティー戻っておいでー?」

「まっっっじで何なんだよ!!!世の中不平等だ!!!!イケメン滅べ!!!!」


本当に収拾がつかなくなってきた。個性で少し落ち着かせてみるものの、こんなに混沌としてたら加減が難しくて少し筋肉が弛緩する程度。

スタジオのスタッフさんたちも少しソワソワしているのがわかる。あー、これ放送された後絶対にニュースに取り上げられるなぁ。来週は違う番組の収録だけど大丈夫か?キャストたちも盛り上がって浮き足立っている。


「じゃ…じゃあ今、恋人はいはるんですか?」


答えはyesだけどそんなのをここで言ったら間違いなく爆豪に殺されるし、俺のプライベートが撹乱されることも間違いない。

だからって恋人はいないと答えても簡単に引き下がってくれるはずもない。だったら、


「恋人ねぇ?……俺を落とせたら教えてあげますよ」

「「「「「「キャー〜〜ッ!!!」」」」」」


あ、これ答え間違ったわ。


 *


 *


『君主カーミング!学生時代の恋人とは!!?』

『カーミング非公式ファンクラブのサーバーがアクセス集中でダウン!』

『チャージズマ君主カーミングにガチギレ!』

『近日!カーミングの素顔に迫る!!!!』



「静さんやい」

「何ですか凪さん」

「俺って養護教諭だよね?」

「養護教諭で君主なタレントヒーローカーミング」


あっるぇー???

こんなはずじゃなかったんだけどな。そもそも俺の日常に迫るとか聞いてないし。

爆豪をきっかけに慌ただしく変化する日常はまだまだ落ち着きそうにありません。



【実験的】

試しに行ってみるさま

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ミスで掲載していたのですが少し訂正しました。気づいたら3週間くらい更新してなかったのかな?……早く読みたい!という声を複数いただいて、よっしゃー書くぞー!とモチベーションアップになります。ありがとうございます、そしてお待たせしました。
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