13.即興的日常
ピンポーン
「速かったじゃねぇか…………おい、凪」
「やっほーかっちゃん遊びに来たぜー!」
「急に悪ィな」
「お前の手料理食べれるってんで来ちまった」
「…というわけです。爆豪さん」
はい、おこな爆豪さんは予感的中。二人っきりで過ごしたかったんだろうけど皆でわいわいするのも楽しいじゃん。
「良い匂いがする!もう飯つくってんの!?」
「はぁ……仕込みだけだわ。煮込んでる間トレーニングして…」
怒っていたけどもこのメンツなら怒るだけ時間の無駄だと在学中に心得ていたようで、あきれ返っているだけに留まる。
夕食前のトレーニングねぇ。ほんとプロヒーローの鑑だわ。爆豪宅には始めてきたから彼のトレーニングルームがどんなもんか気になる。
というか、ここに到着するまでに三重のセキュリティチャックがあったから……金持ってんな。
「俺もする!休みで身体動かさないと落ち着かなくって」
「じゃあさ、皆で組手する?個性なしの」
「個性有りだろうが無しだろうがブチのめしてやンよ」
ということで始まりました。チキチキ、組手は誰が一番強いだろ〜なぁ〜ぱちぱちー。
トレーニングルームに移動して軽くストレッチを行う。服も上はインナーだけになった。
柔道場1面分くらいのスペースはある。その他にもトレーニングマシンも幾つかあるから…やっぱ金持ってんな!!?
5人というなんとも微妙な人数であるがトーナメント。一人はシードというわけだけど…
「やりっ!俺シード!」
「まずは上鳴VS瀬呂、切島VS爆豪な」
「メス顔ちゃんは撮影よろしく!」
俺の相手は上鳴と瀬呂の勝者。単純な組手だったら2試合目が実質決勝なんじゃね?と思うんだけどクジだからしゃーない。
1試合目は瀬呂が身長を生かして上鳴を押さえつけたところで勝利が確定。二人とも中遠距離だから力は拮抗していたな。
ということで俺の試合の相手は瀬呂。
2試合目は素のパワーが強い切島が途中までおしてたけど、相手の弱点を攻めるのが好きな爆豪だ。クロスカウンターで顔面に一発入れやがった。容赦ねぇ。
第3試合でようやく俺の番。
「なんか女相手しているようで気が引けるわ」
「秒でそのお口を地面とこんにちわさせてやる」
組手するのにメス顔関係ないじゃんね!?身長差のある相手には懐に入り込むのが有効。
スタートの合図と共に間合いを詰め鳩尾に一発!怯んだところに払い腰をして右腕に関節技を決める!
「ギブギブギブ!!折れるから!!!」
「はっはー!ざまぁーみやがれ!!!」
「悠揚ってあんなに強かったっけ?」
「凪は最初近接だったろーが、弱かったがな」
「なるほど」
個性を伸ばしてから遠距離のサポート役に回ることが多くなったけど、基本である組手は忘れたことはない。最近では雄英で生徒の相手もするからなおさらだ。
「っじゃ、決勝のカードは!爆豪VS悠揚!!」
爆豪相手に組手をするのはいつぶりだろうか。たぶん高校生以来していない。そもそも会っていなかったし。
「手加減なんかしてやんねぇぞ」
「負け面晒す準備だけしときな」
「ギラギラしてんなぁ」
「準備は良いか?……、始め!!」
爆豪の攻撃は速い。それに加え重いし的確。俺が勝るところと言えば回避能力と身体の柔らかさ。
クソッ、手数が多いし往なしきれねぇッ。ちょこちょこ足技を入れるけどダメージにはなってない。ハイキック入れたいけど、隙がでかくなるから今は無理だ。
ボディには食らってないけどガードが上がらなくなってきた。下手すりゃ顔面に食らっちまう。
「近接なら爆豪に分があるなぁ」
「そりゃなぁ、常に最前線いんじゃん」
「15分経過〜」
爆豪に分がある?知ってるさ、だからって負けてやるかよ。汗が垂れる。
長期戦になればなるほど爆豪に有利だ。そろそろ仕掛けなきゃ…来たッ、右ストレートは大振りであるからその隙に右フック。
「グフッ」
「おーっと!悠揚の有効打!しかしダメージは少ないぞ!!」
「じゃ、これはどうだッ」
ぐらついている爆豪に蹴りを入れる。地面に手をつき首に足をかけて倒しにかかる……やっべ!スカッた!!?
「爆豪のボストンクラブ!」
「ンな"ぁ"」
うつ伏せに倒れ込んだ俺の足を掴み反り返らせる。痛ェ…だけど腰には乗らず高角度の逆エビ固め。技は完全にかかってないから腕を使って上体を返せる!
雑技団バリの上体起こしで爆豪の顔面へ身体を持っていくとバランスを崩して互いに倒れ込む。
「大人しくひれ伏せッ!」
「ステップオーバートーホールドウィズフェイスロック!!?」
「グゥア"」
「技かかってる!かかってるから!悠揚の勝ち!」
本気の組み手、というよりはプロレスを征した。爆豪に勝った……個性無しで勝つのは2回目だ。ちなみに47敗している。
「っしゃああぁ!!!」
「クソ凪、卑怯な手使いやがって!」
「ヨガしてたから関節技痛くなかっただけ!」
「こンのくそメス!!」
「ッブ、おい!個性使ってンじゃねぇ!」
いきなり顔面に小爆発。あっぶねっ。前髪焦げるところだったわ!インナー捕まれて爆破されちゃ服は焦げ落ちるわな。
「クソがッ!」
「おねんねしてなッ!」
これ以上爆破されたんじゃ俺だけでなく他のメンツにも被害が及ぶ。6割りくらいの個性を爆豪にかける……はぁ、疲れた……
「悠揚の優勝〜」
「かっちゃんノびてら。つえーな」
「正直爆豪が勝つと思ったわ。つーか服」
「……とりあえず、シャワー借りよ」
ボロボロになったインナーを脱ぎ捨て上裸になる。よく見たらもうアザになってる。前髪が汗で張り付くのをかき揚げる。煤臭いインナーはゴミ箱行きだ。
「……撮んなよ」
「良い筋肉してますな。勝者インタビューと思って」
「ンなもんねぇ。あそこでノびてる奴でも撮っとけ」
俺の個性で動くことがままならない爆豪。宣言通りに負け面を晒すことに成功した。
特に汗をかいている俺は勝手にシャワーを借りることにした。切島たちは飯の準備するんだって。瀬呂がいるから大幅に失敗することはないだろう。
ちなみに爆豪はトレーニングルームに放置ね。
シャワーは……こっちか。早く汗を流したい。
床が冷たくないタイプで広い浴室。バスタブも十分な大きさがある。教員寮と比べたら1.5倍以上あるかな。
頭からぬるい湯をかぶる。シャンプーとコンディショナー…爆豪の香りだ。なんかムラムラする…
いやいや、この状況で何考えてんだよ。さっさと流して出てしまおう。
あ、服がねぇ。
「これでも着とけ」
「いやん、えっち」
「犯すぞッ」
「冗談冗談。さんきゅーな」
脱衣場で身体を拭いていたら突然現れた爆豪。動けるようになったのね。渡されたのは新品パンツと薄手のスウェット。ちょっとデカイけどしゃーない。
「俺もシャワー」
「汗やばかったもんなー、久々にあんなに汗かいた」
「汗だくセックスしたろーが」
「な"っ!?んっ???」
濡れた髪の毛とか気にせず後頭部を引き寄せられる。いきなり舌を突っ込んできたキスは荒々しい。息を吸われて呼吸のタイミングがつかめない。
「っふ……っちょ、ん"〜」
「ふはっ……続きは夜な」
腰が抜けた。
そんな俺を見て気分よくしたのかシャワーへと向かう爆豪。あんにゃろ…組手で負けたからってあんなキスせんでも…
視線を下に向けると少しテントを張ったそこ。
落ち着け…カーミング…お前は沈静の個性の持ち主だろ…落ち着くんだ……
*
「んあ〜良い匂い、肉?」
リビングからは肉の焦げたいい香りがする。にんにくとローズマリーかな。コンソメスープも爆豪があらかじめ仕込んでいたもので食欲をそそる。
「おーやっと出てきたか。爆豪が仕込んでたやつな。お前…服のサイズあってねぇな。あと髪の毛濡れたまんまかよ」
「彼シャツかよ」
「気にしない気にしない。服持ってきてねぇし、爆豪と身長差10cmあんだから、仕方がない」
「そんなチビだった?俺と変わんなくね?俺175くらいなんだけど」
「俺も175だわ」
上鳴も俺も一般的に言えば身長は低い方ではない。だがヒーローやってると普通に2m越えてくる奴もいる。
体格が良いだけがヒーローの強い条件ではないが有利になることも多いだろう。
「お前ら伸びなかったなぁ」
「「お前らが成長しすぎなんだよ!!」」
切島も瀬呂も180は越えている。瀬呂は在学中から身長高かったし、切島は知らぬ間に最前線で戦うための厳つさを手に入れている。
ガキみたいに頭をグリグリされるのが気にくわない。男は身長じゃねぇんだぞ!
「何やっとンだ」
「チビーズで遊んでたとこ」
「「チビじゃねぇ!」」
「まぁまぁ、飯にしようぜ!」
「俺ん家で勝手に仕切ってんじゃねぇ。役立たずは座ってろ!凪!お前は手伝え!」
「えー」
「えーじゃねぇッ」
広めのキッチンは二人で並んでも余裕がある。爆豪は焼かれた肉を丁寧に切っている。俺はトマトとフルーツのカットを言い渡されたので大人しく遂行中。
肉には赤ワインだよなぁ。買ってきてよかった。煮込みのやつも旨そう。
昼のも美味しかったけどきっと爆豪お手製のもきっと美味しいだろーなぁ。チラッと盗み見てると視線の先には紅の瞳。
「何見とんだ」
「……いやー?うまそうだなーって」
手元を狂わせなかったことを誉めてほしい。なんか、この空間が焦れったい。近くにいて見つめ合えるのに…触れるのはお預けってか。
「マジでお前ら才能マンだわ!」
「よっし!じゃあ、プチ同窓会と致しまして…」
「「「「かんぱーい!」」」」
「……うっせ」
酒を入れての同級会は半年前以来だからむちゃくちゃ酒が進むし話も進む。昼間あんだけ話したのになぁ。
あ、ワインのボトルもう空けちゃった。ハイペースで飲みすぎか。ちょっと気分もフワフワする。
「なぁッ爆豪!悠揚に恋人いたって知ってたか?」
「隣の部屋だったろ?何かなかったの?」
「あ”?話すことなんかねーわ」
またこの話題ですか。恋人っつても当人がここにいるからなぁ。
「真っ直ぐで、料理上手で愛情表現が斜め上を行く?綺麗系だっけ?」
「そんな奴いるかー?」
それがいるんですよね。君たちの目の前に。告白は爆豪からされたけど今だったら俺の方がこいつのこと好きだって胸張って言えるわ。
「高校から付き合ってー…すれ違って音信不通になったけど、最近より戻してェ……なんつーか色々最高よ」
「元サヤかよ!」
「悠揚酔ってんな?いいぞ!もっと話せ!」
酔ってる?かもしれない。料理も酒も旨いんだ。愛しい人が作ったやつだし?
こうやって誰かに惚気ることなかったもんなぁ。みんなに言いふらしたくて仕方がない。
「最初はなー、ねぇわって思ってたんだけど…どんどん可愛く思えてきてさ〜。最近思ったのは……、相性が良い!」
「!夜の?」
「そー、すっげーきもちーのよ。フェラとかどこで覚えたん?ってくらいすぐイキそうになるし……そりゃ腰止まんなくなるよねぇ?俺の名前呼びながらイクのとか最高ぉっにかわいい。むっちゃ好き……あとはーおっぱいも…」
「もういいから!聞いた俺らが間違いだった!お前が幸せならそれで良い!!」
俺が幸せなら?そーだなー。仕事も忙しくて休みもまともにとれない。今回の休みは奇跡的だ。同期も健在で一緒に食事して酒のんで。
そんで、目の前には想い焦がれる人がいる。
「俺、今日お前らと過ごせて幸せだわぁ」
「メスぅ!!」
「お前ってやつは!!俺も良いダチ持って幸せだ!!」
「バクゴーさーんコイツらどうするよ」
「知るか」
いつの間にか終電の時間。感覚的にはまだ2時間くらいしか経ってないのに。
「帰るかー」
「俺も…俺の服は?」
「お前そんなんで雄英まで帰れないだろ。爆豪泊めてやってよ」
「っち、くそ酔っぱらいが…」
そんなに酔ってないよ。発言はタカが外れちゃった感じはあるけど普通に歩けるし…あれ、力入んねぇ。
脇に腕を入れて支えてくれた爆豪に身を任せてみんなを見送るために玄関へと向かう。みんな帰っちゃうのか。寂しいな。
「まーたなー」
「良い映像撮らせてもらったわ!っじゃおやすみー」
「?おー、おやすみー」
パタンと扉が閉じられたと同時に訪れる静寂。さっきまであんなに騒がしかったのに。爆豪と二人だと静かだ。
もたれ掛かっていたのに更に力を入れてみる。びくともしねぇな。
「楽しかったなー?」
「…テメェは喋りすぎなんだよッ」
「??」
リビングの後片付けもほどほどに姫抱きで連れていかれたのは、彼の寝室であろう場所。
「凪ちゃんが好きな恋人様が可愛がってやんよ」
俺の夜はこれからか。
とか、酔った頭で一生懸命考えました。
【即興的】
その場その時の興にのって、即座に行うさま
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