ホークス(23)×夢主(15)
「やぁ、俺のかわいい小鳥ちゃん」
「鳥じゃない、うるさいです…職場体験ぶりですね」
「シオンちゃん辛辣だねぇ。最近『カフェ』でも見ないから4か月ぶりくらい?」
私は産まれてすぐに個性が珍しいからと人拐いにあったらしい。らしいというのは保護される7歳まで何も知らずに生きていたから。オークションに出展され言い値で売られペドフェリアに可愛がられながら育てられ保護された。
性的虐待もなかったしストックホルム症候群にならず闇落ちもしなかったから『カフェ』に引き取られた。
助けてもらった恩もあるし何より私の人生を歪めた元凶の敵はまだ捕まっていないから『カフェ』で働いている。
要請されたお仕事だって「私を育てたあの人を捕まえたヒーローが憎い」とストックホルム症候群をにおわせればすんなり合流できた。
敵連合と繋がっていることは1ーAのみんなには悪いけどこっちはクラスだけでなく国を救わなきゃならんのだから勘弁しておくれ。
「シオンちゃんはインターン来ないの?」
「過度にあなたと一緒にいると怪しまれる」
「なに?俺の前では気が抜けちゃうって?
嬉しいこといってくれるじゃん」
確かに彼と一緒にいたらボロが出そうで怖い。出生があまり普通ではない私たちは昔から寄り添うように生きてきた。秘密を共有している唯一の存在。8歳上の彼を兄のように慕っているだけなんだけど…
「わかってるくせに」
「かわいいね、やっぱ俺ん所来なよ」
「卒業後スカウトしてくれるんだったら、てか多忙なあなたが何でここに?」
「シオンちゃんとデートしたくて。ついでにビルボード」
「ついでが逆」
彼は軽口ばっかりののらりくらりな性格だから周囲の人が私とデートしてるのを見てもそんなに騒いだりはしないだろう。職場体験でお世話になって最近は会っていなかったから様子見という言い訳もできるし。
「外出制限あるんだから」
「寮になったんだって?逢い引きもカフェデートもしにくいったらありゃしない」
「ホークス、発言は改めて」
「ガード固すぎ、いったいどんな躾を受けたらこんな模範的な子になるのかね」
あなたと一緒ですよ、とは言えず心の中に留めておく。同じ教育は受けてるけど私は設定上闇を抱えた物静かな少女を演じなければいけない。
本当は甘えたがり、それを知っているのはおそらく彼だけ。職場体験の1週間は常闇くんも一緒だったけど夜とかは仕事の合間を縫って甘えさせてくれた。いや、怪しい意味ではなく。
普段から気を張っているからあの時が恋しくなる…
「職場体験良かったなぁ」
「んお?熱い夜を思い出しちゃった?」
あながち間違ってないから強く反発できない。
あの日の夜は甘えたゲージが振り切れてカルガモのヒナのように彼にベッタリだった。なんなら一緒に寝た。そういう意味じゃないからね?
「…だから誤解を招く発言しないでってば。それに未成年に手を出したら犯罪」
「かわいいから今のうちに引っ掛けとこうと思ってると」
ほら、また軽い。もう嫌んなっちゃう。彼の発言は甘えたな妹を可愛がっているだけ。
「そんな話をするためだけに来たんじゃないでしょ?」
「そうそう、今度『黒猫ちゃん』に会いに行くんだよ」
「そうなんですね、『白猫』は元気そうですか?」
「『白猫ちゃん』にはまだ1回しか会えてないんだ」
「そういうときもありますよ、『カフェ』は?」
「それよりシオンちゃんと一緒がいいな」
全くこの人は…色々秘密がバレたらどうするっていうのよ。
私たちは『カフェ』からの要請で『白猫』とコンタクトを取っている。そして彼は選定のために『黒猫』と会っているらしいんだけど。
「…黒猫ちゃんは新しい『おもちゃ』貰ったみたいでさ、今度遊ぼうって言われちゃった」
「大胆なお誘いするもんだ。
どんな『おもちゃ』なのか気になりますねぇ」
あいつらが準備した新しい『おもちゃ』なんて嫌な予感をぷんぷんさせる。話を聞くと彼を試すための行動みたいだがたぶん容赦はしないはず。
「だから会えなくなる前にお話ししとこうと思って」
「…………ねぇ、
それってお別れの挨拶のつもりじゃないよね?」
空気が変わった。嗚呼、死ぬ覚悟はできてるんだね。笑顔の消えた表情から読み取れることなんて少ししかない。
もし今回は生きていたとしても彼の行動が露見すれば厳しい制裁が加えられることは間違いない。だからこれからはより一層行動が制限される。
さっきはインターンに来いって言ったくせにそんな気更々ないんじゃん。
親しい関係とも一線を引いて過ごすなんてそれじゃあ彼が苦しいだけじゃないか。
「そうやって私が自ら近づこうとすれば拒むんだ」
「拒むんじゃない、正しい距離感をとっているだけ。緋色ちゃんが言ったんじゃないか、未成年相手だと犯罪者って」
「…私は、ホークスのためだったら何でもできるのに」
「だから…ッ、俺を犯罪者にしないでおくれよ」
珍しく感情を荒げたホークスの瞳には確かな劣情。
「ッ…手は出さない」
「…」
「でも、帰ってきたらただいまのキスをさせてよ」
「!…、、、待ってる」
テーブル越しに固く結んだ手は夜中の空中散歩から"さよなら"をするまで離されることはなかった。
*
約束をしてどれくらい経っただろうか…時折あの日結んだ手を見つめては、力なく握ることが癖になってしまった。上の空の私をクラスメイトが心配するほどにそれは日常的に。
あれから一切連絡を取っていないしカフェの任務でも見かけることすらない。敵の活動は鎮静化しカフェのお仕事をちまちまするのみ。
彼からはインターンもスカウトも一切話が来ない。
*
「僕のかわいい小鳥ちゃん」
「…ッ、」
いきなり背後に現れた声に息が詰まる。
どうして?なんで?ここは学校の寮で部外者立ち入り禁止じゃ?呼吸が正しくできない。声を発したいのに。普段閉まっているはずの感情が出してくれと叫んでいる。
「、なん…で?」
「ヒーローが暇を持て余してるなんて最高じゃん?」
「それ、……て」
「カフェはしばらくお休みしていいんだよ。
何?シオンちゃん、もしかして寂しかった?」
「ぁ…さ、みしか、った、…っよかっ…たっ」
「そう…
んで俺は、犯罪者になりに来たんだけど?」
「!!っ…おっ、おかっえりッ」
「うん。ただいま、シオンちゃん」
彼と初めてした"ただいま"のキスは
学校の寮の共用スペースで友達もいる前
少し離れて互いを見つめあったあとのキスは
お髭がちょっと刺さってくすぐったくて涙の味
抱き締め合い互いの温もりを感じながらのキスは
とっても幸せで…とっても、イケない味がした
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