高校1年生だった。
クラスの中心的立場ではないけれど良くも悪くも目立っていた。静かな闘志の中に確かな情熱があって私はあなたのそんなところが好きだった。
始まりは下らない世間話だった気がする。男子と話すことは苦じゃなかったけど、あなたと話すのは少し緊張したのを覚えてる。
私とあなたは誕生日が近かったっけ。近づいたのは1年の誕生日だったね。あなたは私に言った…
「誕生日プレゼントは…?」
あなたに惹かれていたのは確かだけど恥ずかしくてこっちからは何もアクションが起こせなかった。それさえも見据えてあなたは強引にも頬にキスをくれって迫ったね。
普段は言わないことだろうから目が泳いでたのを私は覚えてるよ。
ヒンヤリとした頬にキスをした私の唇はたぶんかなりの熱を持っていたんだと思う。
「緊張、か…」
小さく呟いても聞き逃さない。そうだよ、緊張してたんだよ。だって男の子にキスするのって初めてだったんだもん。
そう、私にとっては何もあなたが初めてだった。
頬にキスをするのも、されるのも。
帰り道傘に隠れてキスをしたのも。
放課後勉強で教室に残ると言ってあなたとハグしたのも。
休みの日に待ち合わせしてデートしたのも。
家族ぐるみで食事をしたのも。
寒い中手を繋いでイルミネーションを見たのも。
電話をしながら年明けを迎えたのも。
お互いの部屋でエッチなことをしたのも。
将来は2人子どもが欲しいとか話したのも。
遠距離恋愛で励まし合いながら仕事してたのも。
失恋も。
全部あなたが初めてだったんだよ。
嬉しいことも悲しいこともぜーんぶ。
あなたはそれを嬉しがったよね。
「最初の記憶は強く残る」って。
だからって。
「一番最初の別れじゃなくていいじゃん…」
人の一生とは呆気ないものだ。
ヒーローであった証拠としてコスチュームのまま棺に入っている。
敵の個性で胸を貫かれたらしいけど外傷は全くなかった。いつものあなただったら敵の攻撃をこんな簡単に受けるはずないのにね。
そっか…子どもを両手に抱えてたんだ。
即死じゃなかったから苦しかったのかな。
やっぱり痛かったよね。
あなたが救けた子どもたち元気だった。
救けられたお礼言いたいって言ってたよ。
綺麗な顔して本当はただ眠ってるだけじゃないの?
ドッキリなら大成功だから起きてよ。
玉串なんてあげたくない。
お経であなたの功績言ってるけど今からでしょ?
大層な戒名貰ってんじゃないわよ。
花なんか添えられて…似合わない。
棺の中は思い出の品やお花で溢れてたのに、焼け切らなかったコスチュームと骨だけが残っていた。親よりも早く死んじゃうって、何よりも親不孝だ。
身内だけで行われた葬儀だから私も遺骨拾いに入れたけど、これも最初があなたは嫌だったな。
明後日お別れ会があるから、そこにはたくさんのフォロワーが来るだろうね。
あなたのお母さんから聞いたけど、私以外に恋人いなかったんだって?奇遇だね、私もだよ。
これはきっとあなたの葬儀じゃない。
そう思い込んでいたけど飾られている写真やすすり泣く声、語られるあなたとの思い出話にやっと…あなたが死んじゃったんだって心が理解した。
最後に話したのいつだったかな。
恋人がいなかったのは無意識にあなたがいたから。
比べてしまったらあなたの方が素敵なんだもの。
実はあなたを思い出して戻りたいなって思ってた。
私の青春時代はあなたがいたから楽しかった。
仲良く過ごしたのに、喧嘩別れっぽかったよね。
怒りは時間が消してくれたけど溝は大きかった。
連絡しようとは思ってた。
その前にあなたの報せを聞いた。
ヒーローは遺言を準備してるって言うけど、あなたのお母さん宛に書かれた手紙には私にも来てほしいって書いてたんだね。
葬儀は身内で、そのあとに別れの会。
泣くのは最初だけで後は踏み台にして生きろ。
遺骨はメモリアルダイアにしろって…形に残したいって考えはあなたらしいなって思ったよ。
そして私にもあった遺言という名の手紙。シンプルに書かれたそれは涙腺を崩壊させるには十分すぎた。
「" ごめん "」
「" 愛してた "」
「" 受け取って "」
嗚呼、重すぎるよバーカ。
あなたを嫌って、過去の思い出も何もかも風化できたら良いのに…ダイアモンドとして残るとか頭おかしいんじゃないかと思う。
良かったね。
私の今後の初めて…例えば、結婚は阻止できそうだよ。
「私も愛してた」
過去形の愛は涙が止まらなかった。
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