辞めてほしいなんて(後編)

ピコン
《こんにちは、柊シオンです。対敵でチャージズマさんが重傷って聞いたんですけどお怪我は大丈夫ですか?》


シオンちゃんだ。なんてタイミングだこと。

初めて連絡がきた。思い描いていたものではないけど痛みなんてふっとんじまうっ、…うそ、むっちゃ痛ぇ。


《連絡ありがとう、こちらチャージズマ。今は治癒個性で少しずつ治してもらってる。動くの禁止されてて暇を持て余してるわ》

《お返事もらえて良かったです。お見舞いに伺いたいなーって思ったんですけど…ヒーローが入院してる病院だったら…ご迷惑ですよね》


お見舞い!?シオンちゃんが!?
落ち着け…落ち着くんだ俺ぇ……


「やっっっっっべぇ!!!!!!!!!イタタタタ」


「上鳴さーん?大きな声だしてどうしたんですか?」

「いやー、なんでも……」


お見舞いかぁ……来てくれるのはもちろん嬉しい。でも怪我をして情けない姿は見せたくない。せっかくヒーローチャージズマとしての俺を見せられてたというのに。マジで情けねぇよ。


《迷惑じゃないよ。気持ちはすっげーありがたいし嬉しいけど、ぶっちゃけカッコ悪い姿は見せたくないなーって》

《ヒーローだって人間なんですからそういうときもありますよ。うーん、会えないのは残念ですね…無理はしちゃダメですからね?》


「シオンちゃぁあああああンンンn!!!!」

「上鳴さんどうしました!?」

「なんでもないっす!!!!」


くっそかわいい、かわいすぎてシコい。お世辞でも会えなくて残念とか…俺むっちゃ会いたいっす。

ヒーローだって人間か……そうだよな、カッコ悪くて何が悪い。それも俺だし、今さら繕ってカッコ良くあろうとする必要はないのかな。

最後に会ったのは2ヶ月半前の収録だ。テレビ出演はセーブしてたから会う機会減ってたんだ。これまで頑張ったご褒美…少しくらい良いよな…?


《情けない姿で幻滅しないのであれば……○○大学病院の812にいるんだけど時間があればお話し相手になってくれないかな?》


ピコン
《幻滅なんてしないですよ!えっと……明後日はオフなのでさっそくお見舞いに伺いますね。何かいるものとかありますか?》

《気を使わなくていいよ。来てくれるだけでほんっとに嬉しいんだから》


シオンちゃんが来てくれる、明後日。風呂入れてねぇから髪の毛ペッタンコだ。臭くはねぇだろうけど…いや、それは諦めるしかねぇな。

早く明後日になれ。


 *


 *


コンコン

「上鳴さーん、彼女が来てくれてますよー」

「あ、あのっ…」


 *


 *


病院の入り口には門番みたいな人がいて止められそうになったけど、顔パス。あれ?今日は変装してきたけどわかっちゃったのかな。

まぁいいや、入れたわけだし。と思ったら受付で名前書かないと中に入れないんだね。

ぇっと…お見舞いで…チャージz、じゃなくて上鳴電気さんの812号室。関係は…知人。私の名前と職業も書かなきゃダメなのか、柊シオン…アイドル…?でいっか。

受付の人が何かと照合して面会は18時までとなっていますと言い中に通してくれた。今が14時だけどそんなにいないかな。


8階812号室、上鳴電気様。個室か、やっぱりプロヒーローのプライベートはしっかり守られているのかな。今さらだけど来て良かったんだろうか。

ここにきた理由は単純に仲良くなった人のお見舞いなだけ、そう考えたら不自然ではない。週1くらいで連絡してたし?何しろ彼が入院先を教えてくれたんだから。大丈夫大丈夫、何もおかしいところはない。


「あら?貴女が上鳴さんの言っていたシオンさんね」


病室に入るのが躊躇われ談話室で悶々と入るのを戸惑っていたら看護師さんに声をかけられた。え、上鳴さん私の話してたの?…あぁ、入室許可でかな?


「上鳴さん昨日の回診の時シオンちゃんが来てくれるってすごく興奮してたんですよ。そのせいで血圧高かったんですけどね」


良かった、来て良かったんだ。


「こんなに可愛い女の子が忙しい仕事の合間を縫って来てくれるんだから嬉しいわよね」

「いえ…怪我で利き腕も使えないくらいだし、そもそも動くの禁止されてるって聞いて心配で」

「受け身をとっていなければ死んでいてもおかしくない状況でしたからねぇ。あ、上鳴さんが最近週刊誌に載らないのは貴女がいるからね?」

「そ、それはちがいますよっ」


死んでいてもおかしくない状況。看護師さんに勘繰られたのを否定するけど、脳内を占めるのは彼の怪我のこと。

死んでもおかしくないような状況で、今は動くのを禁止されている。治癒個性でも退院は2週間後にもなる怪我って。

白くなった私を心配する看護師さんは気を使いながらも、上鳴さんは強いから大丈夫よと励ましてくれる。それから病室に案内され”彼女が来た”と真実とは異なる情報が述べられる。


コンコン

「上鳴さーん、彼女が来てくれてますよー」

「あ、あのっ…」


さっき否定しなかったのがいけなかったのか看護師さんはやっぱり私を上鳴さんの彼女だと思い込んでいる。上鳴さんの怪我の状況に動揺してしまったが故に今度こそ弁明しなきゃ。

言い募ろうと視線を上げたは先に全身包帯ぐるぐる巻きで普段はお洒落な印象がある衣服もヨレヨレの病院着。

セットしたところしか見たことがない髪の毛もぺちゃんこで、彼が先日言っていた「カッコ悪い姿」「情けない姿」が的を射ていて強く動揺した。

でも人懐っこい笑みを忘れない上鳴さんがそこにはいて私も笑顔を作ろうとするけど目頭が熱くなるだけだった。


「て、シオンちゃん!?」


涙を流した私にぎょっとする上鳴さん。お見舞いに来た相手が突然泣き出したらそりゃ引くよね。


「あらあら、元気な姿を見てホッとしたのかしら?さっきも顔色白くてここに中々入れなかったのよ。それじゃあね」


違う、真逆ですよ。連絡したときには軽い感じで暇だって言ってて…でも死んでもおかしくない怪我してて。今まではタレントヒーローだって勝手に思っていた。軽いし週刊紙の常連だし…

最近はヒーロー活動に本腰入れたとかで、会う機会は少なかった。たまに来る連絡では地方のタイアップで美味しいもの食べたって話を聞かせてくれるものが殆んど。

その度にヒーロー頑張ってるんだな、美味しいもの良いなと思って……いつか彼が「一緒に食べに行こう」って誘ってくれるのを待っている自分がいた。

でも死んでしまったらそれが出来ないんですよ?


「上、鳴さぁん、グズ……死なないで、」

「シオンちゃん泣かないで…今の俺じゃ涙を拭いていやれないんだよ」


伸ばすことの出来ない手に触れて涙を堪える。


「お疲れさま…です…よか、ったぁ」


あなたの下らない連絡を楽しみにしてるんだからもうこんな怪我はしないでください。心配で胸が張り裂けそうになる。あなたが怪我をすると私も胸が痛くなる。


「来てくれてありがとう。好きだよ」

「え………?」

「え……あ”!!?いや、今のは違くて…ッ」


顔を必死に背けながら、違う間違い、言うはずじゃなかったと言っているけれど…そんなんじゃもう誤魔化し効きませんよ。


「私も、たぶん、好きなんだと思います」

「ほぇ?」


自然に出てきた言葉に違和感はなかった。

勝手に涙が出ちゃったのも、連絡を楽しみにしてるのも、口走ってしまって赤くなる耳とかも。

たぶん、好きだから。


初めてのキスは私から送ってあげる。


「!!!!!???!??」

「ああッ!上鳴さん!?か、看護師さーん!!」


初めてキスをしたとき、彼は鼻血を出して気絶してしまいました。このこのとはずーーーっと忘れないんだろうなぁ。


_


_


_


勝手に完結したつもりでいた上鳴の後編。
まーじで忘れてた。本当は3部作なんですけどこれ以上続けられそうにないので…でんぴっぴごめんよ、ガチで忘れてた。
[ 6/9 ]

[*prev] [next#]

 小説分岐

 TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -