辞めてほしいなんて(前編)

俺の付き合う子はたいていかわいい。

高校から何だかんだで彼女はいたし、雄英高校ヒーロー科出身っつーことで合コンでもモテた。顔もそんな悪くないだろ?

問題なのはモテるが故に週刊誌にすっぱ抜かれること。相手がコロコロ変わってるから遊び人のレッテル貼られてるけど、俺は一途だ!……いや、かわいい女の子に誘われちゃったら8割方着いていくけどもっ!


だがしかし。

かつて遊び人と呼ばれた俺もそれは過去のこと。


何を隠そう俺史上最上級にかわいい子と今お付き合いさせてもらっているのだ!


そして今日もテレビの中で笑顔を振りまく彼女をみて優越感に浸る。頑張った。頑張ったよ、俺。


彼女は神が二物も三物も与えたアイドル。
そう、アイドル。もう一度だけ言おう、アイドルだ。

容姿は言わずもがな。可愛いと綺麗が6:4。完璧。
東京の偏差値クソ高大学出身。次いでに雄英卒。
性格は優しくおっとりで実は少し天然。どっきりで1週間密着されてたから全国民にバレてる。うん、可愛い。そして何よりもその歌声。可愛らしい顔から発せられるとは思えないパワフルだけど透き通るようなボイス。

個性は髪の毛の色が変えられるらしい。衣装やメイクにプラス雰囲気で髪の毛もって感じ。地毛の淡藤色もきれいで指通りがよく少しフワッとしていてずっと触っていたくなる。


はぁ…本当、よく付き合えたよな。高嶺の花だわ。


出会いはバラエティー番組。チャラくてバカな軽いノリのヒーロー…よかはタレントっぽい扱いでテレビに出ることは多い。まぁこれでも一応雄英出身で賢いというのがこの間のクイズ番組で周知されたから良いけど。

最初は俺の一目惚れ。テレビでは何回も見てたのに会ったら史上最高に胸が高鳴って比喩じゃなく息ができなくて苦しかった。ビビビってきた一目惚れは初めてかも。


いつも通りに軽く食事に誘おうと思ったけどなーんか緊張しちゃって声すらまともにかけられなかった。

そして2回目に会ったときにようやく会話らしい会話ができた。でも彼女の俺への第一印象はあまりよくなかったらしい。ご飯に誘おうとしたけど、


「チャージズマさんと一緒にいたらあることないこと書かれそうなので遠慮しますね」

「へ?」

「私、男気ヒーロー烈怒頼雄斗のフォロワーなんです。真っ直ぐで硬派な感じが好感持てますよね」


ついでに告げれたのは切島のフォロワーだということ。あれはショックだったなぁ…

なんとか連絡先は交換できたけど、今後どうやって交流を深められるというのか。


まず始めたのは彼女が指摘した軽いイメージの払拭だ。毎週のように行っていた合コンも辞めた。プライベートのスマホには女の子の連絡先はなく、母と事務所関連と同期、彼女を除いて存在しないに等しい。

そして次はヒーロー活動。こういうと不真面目な感じがするかもしれないけど別に今までおざなりにしてきた訳じゃない。かっこいいところ見せれたらいいな〜とか思ってたのをなくして、毎回泥臭くアホになるギリッギリを責める。休日は個性を伸ばすことや身体を鍛えることに費やした。

もちろん彼女へのアプローチもたまにはする。本当は毎日でも連絡したいし電話もしたい。けどそれやっちゃったら軽いって思われるだろうからグッと堪えた。

アプローチは番組で会う時とたまに仕事で地方に行くとき。しつこくならない程度を心がける。


その甲斐あってかだんだん会話も増えて

そしてその作戦を始めて1年2ヶ月後。努力は無駄ではなかったようでようやく彼女から連絡がきた。内容は怪我した俺への心配の言葉だったけど…してくれた事実がむちゃんこ嬉しかった。


 * 


トレインジャックした敵を鎮圧するとき大怪我しちまった。乗客の安全を考えて派手な攻撃はできなかったけど3対1で対敵したらそうは言ってられず全力で戦った。鎮圧はできた、さぁ電車止めるぞってときに仕留め損なった敵にタックルされ一緒に外へ放り出されたんだ。

速度は落ちていたとはいえ70q/h。背中から落ち転がる。受け身はとったけど、右上腕骨折、左肩脱臼、肋骨と骨盤のヒビと他にも5,6箇所ヒビやら骨折やらの痛みに耐え敵を完全拘束。脳へのダメージや内臓の損傷もなかったから大事には至らなかったのが幸いだったけど応援が来たら痛みで気絶。

そんでヒーローも信頼を寄せる病院の治癒系個性で癒してもらう。もちろん完全には治らず2週間はかかると言われた。起き上がることもできない状態で不便だったからまずは骨盤を治してもらってる。次は右腕だな。

っつっても利き腕が思うように使えないのは不便だ。骨折したのは上腕骨でも指も動かすたびに激痛で食事やケータイだって満足にできない。

看護師さんに食事の手伝いしてもらうのも、前だったら間違いなく喜んでいるはずだ。

事務所の連中が見舞いに来てくれたけど俺が抜けた分忙しくなるって言ってたし暇の極みだな。かつてのクラスメイトも来たそうだったが如何せんヒーロー、明日は我が身だ。まずは自分を心配してほしい。

昔いろいろあった女の子達からも連絡はあったけどこの病院への見舞いは基本一般人は禁止。入院患者が許可した人物以外は門前払いされる。


暇だなぁ。今の俺の暇潰しにはテレビしかない。昼の番組にチャンネルを合わせて眺める。ああ、俺が怪我したニュースもやってんのね。

なになに…トレインジャックを見事解決。しかし代償に複数箇所の骨折の重傷でヒーロー活動1ヶ月休業…最近浮いた話が1つもなくヒーロー活動に腰据えててかっこいいって?

怪我もかなりの重傷で調子がいい彼からしたらだいぶ無理をしたみたいだと…まぁ無理はしたかんしんねーけどちゃんとヒーローできたんならいいや。

VTRには人質になってた人のインタビューで俺がどういう戦いをしたかや発言はどうだったか、など俺のかっこ良さに語ってくれていた。

怪我すんのはほめられたことじゃねーけど、やっぱ助かった人たちがいるって実感すると嬉しい。ヒーローになって良かった。


ぽけーっとしてたらいつの間にか番組が変わって音楽番組になっていた。懐メロを今の歌手が歌うやつで、学生時代に演奏した曲も流れてきた。懐かしいなぁ、何年前だっけ、8年以上前か…そりゃ成長も変化もあるわ。


「…この声」


懐かしの曲を歌っていたのは俺が想いを寄せている彼女で、アイドルらしからぬパワーボイスで歌い上げる。耳郎のハスキーな歌声もとても良かったが贔屓目があるせいか聞き惚れる。

かわいいなぁ…ライブ会場で歌ってたやつの中継だったのか。あー、すっげぇニコニコしちゃって。やだやだ、仕事でファンのためなんだから何嫉妬してんの。しかも別に付き合ってもないし、俺がこんなに好きなのも彼女は知らないはずだから。俺が変わったのは彼女のためなんて知るはずもないから。


でも、あの笑顔を俺だけに向けてほしい…なんて。


「(会いてぇな)」
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