城下から数キロ離れた山奥にある小屋。そこが私の住み処。
家のお庭で薬草を育てたり山に採りに行ったり、実験したり調合したり…薬屋を生業にしている。
そんなところでも訪問者は少なからず居るわけで、今日のお客さんは。
「シオンちゃーん!野菜のおすそわけ!」
「いつもありがとう。今日は…カボチャね。あ、腕の調子はどう?塗り薬の追加はいい?」
「うん、すっかりいいよ。さすが凄腕の薬草師(ハーバリスト)だね」
「なら、いいわ。ありがとね」
比較的近くに住んでいるデクくんは家で作っているお野菜をこうやって持ってきてくれる。最近腕を痛めていたけど回復したようで良かった。
この世界には季節が混在しているから野菜もできたりできなかったり。薬草だって自生するものは土地によって大きく異なる。
「最近お家はどう?」
「いつも平和だよ。んー…友達が遊びに来たくらいかな?」
「魔女と騎士の?」
「そうだよ。それと城下にも行ったんだけど…とんでもない人と出会ったり」
「とんでもない人?」
魔女だったり騎士だったりドラゴンだったり混沌したここいらでとんでもないも人との出会い?
「ショート王子と友達になった」
「それはとんでもない」
「でしょ?」
ショート王子…ねぇ。彼はこの国を統べる王族の第三王子。でも次期国王は彼だと現国王は公言している。そのため彼には敵が多い。
なんでも崖付近を馬に乗って散策している王子が身投げをしようとしていると勘違いしたところから繋がりが始まったらしい。
んー、護衛もつけずにそんな所にいたら勘違いしてもおかしくはないだろうけど……
たぶんまたお節介が発動したんだろうな。それで友達になっちゃうのはデクくんの人を惹き付ける力があるからだと思う。
「デクくんも不思議な人脈持つよねー。王都騎士団の次期団長に駆け出し魔女、ギルドのオーナーに宿屋のかわいいお姉さん…」
「無駄に顔だけは広くなったかなぁ」
田舎の少年だけどこんなにも人脈は私と比じゃないだろう。まぁ私がここから出ていないっていうのも1つの理由だけど。
「不思議といえば、最近さ赤いドラゴンがよく飛んでるでしょ?」
「うん」
「知ってるとは思うけど、赤いドラゴンは上級個体でしょ?それを使役してるのは大抵権力のある竜人族なわけでね」
「うん」
つまりはその赤いドラゴンには竜人族のお偉いさんが乗り、最近ここいらを徘徊していると……?
「今までは火山の方にいたんだけど頻繁にこっちにいるんだ。で、ここからが噂話と僕の考察なんだけど…竜人族が"番探し"をしてるんじゃないかって…気に入った相手がいたら無理矢理連れていくなんてこともあって…ここには来てないよね?」
「あー、お客さんとして来るわよ」
「え"!!?な、んでここに入れるの?!」
「そりゃ悪い人じゃないからよ」
「う、っそだぁ!?!!」
竜人族は血の気が多くて喧嘩っ速い。権力を象徴するかのようなドラゴン。一般人からしたらちょっと怖いかもね。
見た目もヤンキーだし、それはしょうがない。
でも良い人達よ。ドラゴンの血を引き継いでいるとされる彼らは、誇り高き戦士だ。卑怯なことは好まず、相棒として使役するドラゴンとの信頼関係は厚い。
それに私のもとへ辿り着けるということは、悪意の無い証拠。
「ちなみに…誰が来てるとかは…?」
「竜人族の族長さん」
「かっちゃん!!!?!?!」
”かっちゃん”てカツキくんのこと?まさか彼とも知り合いなのかしら。人脈広いと言うか、超インドアで超アウトドアな彼の行動範囲はよくわからない。
「たぶんその”かっちゃん”よ。アイボリーの髪の毛に緋色の瞳」
「肩に羽とTのトライバルタトゥー……?」
「使役しているドラゴンの名前はエイジロウ」
「かっちゃんだァー!!???!!」
話を聞いてみると昔近所に住んでいたらしい。幼馴染みだから彼の情報を頑張って手に入れていたらしいんだけど…
「そっかぁ…かっちゃんかぁ…なら、無理矢理拐っていくことはないか。まぁ適齢期で番探ししてるのはわかるよ。マジか…なんかショックだなぁ幼馴染みのそういうところあんまりみたくなかったよ……お嫁さんねぇ、どんな人がタイプなのかな、最近ここ周辺を飛び回ってるとなると城下から少し離れた僕らが住む村かなぁ、でも村の中で彼を見たことないし…そしたらもう他に人なんて住んでるところ無、い………シオン-ちゃん!?!?!」
「うお、やっと終わったと思ったら。なぁに?」
癖、もといブツブツ芸が終了するかと思いきや叫んだデクくん。
「かっちゃんここに来てるんだよね!??」
「うん、たまにね」
「な、何かさ!プレゼントとか貰った?!?アクセサリーとかっ!」
カツキくんから貰うものといえば薬の代金の代わりの鹿肉や魚といった食糧。あとは火山に自生してる薬草を採ってきてくれたりする。果たしてプレゼントと言って良いものなのか。
「……プレゼントは無いかなぁ」
「っホ………良かった」
「食糧とか薬草とかはあるかな……ん?アクセサリーといえば、彼…勾玉のネックレス忘れて行ってたわね」
「!!?………そっか…じゃあまた来るだろうね…ッ」
「??」
あんなに捲し立てていたのに静かになっちゃった。
*
*
城下、ギルド。
「デク、こんな時間に珍しいじゃん?どした?」
「キョウカさん…」
「デクくん慌ててお城に来たんだけど混乱してて…テンヤくんとウチでこっちに連れてきたんよ」
「遅い時間にも関わらず城へ来たということは、それだけ退っ引きならない事情があったのだろう」
夕食時のギルドは一仕事終えた勇者やハンター、魔法使い、格闘家、踊り子などで賑わっている。
その中で顔面を机に擦り付けるデクは異様で、彼の友人たちは何があったのかと覗き込む。
「竜人族ってさぁ…」
「ああ、最近こっちでも目撃多いよね。諜報活動しててもよく耳にはいる話題だわ」
「でも何もないんやないの?」
「竜人族がどうしたんだい?」
竜人族が辺りを飛んでいるという噂は少し離れた城下にも届いているようで、それだけだったら気にも止めることはない報告だ。
「竜人族ってさ、…食糧の提供は甲斐性のアピール……望むものの提供は寛容性のアピール……自らが身に付けているものの提供は、マーキングらしいんだよねェ」
「?アンタ求婚でもされたの?」
「へぇー竜人族ってそういう風に恋愛するんだねぇ。デクくんのところに来たってことは……肉食女子!?」
「いや、でも確か……竜人族は男児が産まれることがほとんどだぞ?…それに未婚女性はいなかったような…?」
「はァ……」
竜人族の族長がハーバリストにお熱だということは、まだデクしか知らない…
「シオンちゃんの薬なくなっちゃったら、この王国の民は何処の薬草師を頼れば良いんだよ…」
「「「!?」」」
その噂は、明日には千里を駆ける。
*
*
「シオン、前に言ってた火喰い鳥の卵だ」
「わぁお、スッゴク貴重なもの…うん、無精卵だね。薬の材料で使わせて貰うわ。ありがとうカツキくん……お礼、ん」
「……お前よォ、礼にキスするくらいならいい加減俺の処に来いよ」
「キス以上が欲しいなら1国を敵に回す覚悟がないとあげないからね」
キスをされた頬を撫でる族長は不敵な笑みをもらす。
嗚呼、俺はコイツが欲しい。
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5万hitでご好評だったのでシリーズ始めました。更新むちゃ遅いと思います。
リクエスト消化してないのに違うのに手を出しちゃった。浮気性でごめんなさい、我慢できなかったの。
着地点不明なので突然終わるかもしれないので悪しからず。
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