カン、コンコン、カーン、ゴツゴツ
「ふぅー…」
「そんな細っこい腕ですることかよ」
「あ、カツキくん…お手伝いしてくれるの?」
「違ェわ。薬だわ」
「その薬を作るのに、薪割りしてるんだけどな」
「っち、よこせッ」
「ふふ、ありがとう」
城下から数キロも離れたここに訪れる人なんて限られてる。私は薬屋さんを生業にしているから、たまーに近くの里の人がまとめて買いに来てくれて生計を立てている。
旅人とかもたまに来るけど悪意を持った人は入れない。
そして、目の前にいる上半身裸でマントをかけたこの男は怪我をするたびにやってくる。
「今回はどこを怪我したの?」
「俺じゃねぇよ。若ェのが調子に乗って怪我しただけだ」
「あ、あの子でしょ。一番チクチクしてる子」
「威勢だけはいっちょ前なんだよなぁ」
「長は大変だねぇ」
血の匂いがしないから今日の彼は無傷。薬の準備をする間に彼には薪割りをしていてもらおう。
彼との付き合いは全くもって長くない。むしろ短いな。去年の雨が降る日。あるドラゴンを助けてからの付き合いだ。
*
*
シトシトと雨が降る中、日課である薬草の回収が終わり帰る途中。
「怪我してるの?」
「ググウウッ」
「雨で傷が痛むね。薬塗るからちょっと我慢してて」
雨の中うずくまるドラゴン。
右太ももには矢が刺さり、顔には傷ができていた。痛み止めを塗り止血を丁寧に行う。赤い四肢を満遍なく覆う鱗は一つ一つが尖っていて、下手したらこっちが怪我しちゃうな。
薬を塗り込み、早く治りますようにと”おまじない”をする。雨で流れてしまわないように大きな葉っぱの薬草を張り付けとこ。
よし、これで大丈夫。ドラゴンの表情もさっきより穏やか、な気がする。
雨に濡れながら作業していたけど、この子が翼で屋根を作ってくれたからびしょ濡れにならずに済んだ。
「君、優しいんだね」
「グゥァン、グゥルルゥウウゥッ」
「なるほど、最近バディになったから良いところ見せたかったんだ。でも怪我してたら心配させちゃうから、無理は駄目だよ」
「ヴァッヴ!」
「へ?」
振り返ると短刀の剣先が首に当たっている感覚がある。目の前のドラゴンに夢中だったのと、雨の音で彼が近づいてくるのに気づかなかった。
それに加えて彼の秀でたスニーキングで気づかなかったというのもあるだろう。
「おい、女ソイツに何をした」
「怪我の手当てを…この子に聞けばわかるわ」
彼の言動やドラゴンの反応からバディであることはわかる。あの子むちゃくちゃ喜んでいる。
まぁ、自分の使役している子が見知らぬ女に何かされたんだ。警戒するのは普通。でも首に傷できたんですけど?
「ヴァッヴァゥグア!」
「っち……あ?元はと言えばお前が勝手に動くからだろーが!」
「グゥルルルルァン」
「言い訳すんな!」
この人は危険な人ではないよ、とドラゴンが必死に訴えてくれる。濡れ衣は晴れたけど…え?
"だって俺が強ければ族長のメンツ守れるだろう"
って……彼、竜人族の長なの?
赤いドラゴンは上級個体。若くて経験値はないかもしれないがポテンシャルは高い個体。鋭く尖った鱗は心の強さを表しているらしい。
それを手懐けている竜人族の族長かぁ…
「どんな傷して……おい、女」
「シオンです」
「……お前、魔法医師(ヒーラー)か?」
「腕の良い薬草師(ハーバリスト)ですよ」
「……そうかよ」
あんまり納得していない様子だけど、薬を調合して傷を癒したり心も軽くしたるする。それが私の生業。
「帰るぞ」
「あ、帰るんだったらそのままだと……」
「ヴァッヴァゥ!!」
「ちょっと?!」
血の匂いが強くなった。目の前の治療と彼の威嚇行為に集中してて気が付かなかった。
突然倒れこんだ彼の右わき腹に手を入れ支えると生ぬるい何かが。
「ウグッ」
「、ねぇ…この傷はいつぐらいにしたもの?」
「こんなのかすり傷だわ……ッ」
「グゥァン!!」
「本当あなた良い子ね。1時間くらい前か」
1時間前にしては出血量がこんなにあるのはおかしい。彼に持病がある?いや、もし持病があるのだとしたらこれほどの怪我を放置しないはずだ。
「私の家で処置する、ドラゴンくん…多分もう動けるだろうからご主人運ぶの手伝って」
「ググッァん!」
口ではかすり傷とは言っていたがかなり体力を消耗している様子だ。ただの傷じゃないな。
元気よく返事をしたドラゴンくんの首の根っこにしがみつかせて家に運ぶけど…落ちないかな。
「ありがとう、ちょっと狭いけど奥で雨宿りして待ってて」
家について彼を引きずりベッド乗せる。敷いたタオルに血が滲んでいっている。さっき応急処置をしたものも意味をなしていない。
「痛むけど、消毒するわよ」
「ん"あ"ッ」
傷口を水で洗い流し消毒液をぶっかける。また血が滲んできた。
これは鏃の傷か…矢が突き刺さるとこはなかったけど掠ってこの状態。毒を盛られていたのね。ドラゴンと戦うような奴らが使う毒だからたちが悪いな。
止血のために薬草を塗り付けるけど…解毒作用のあるものも飲ませないとすぐに回復はできないな…
「これ飲んで」
「ざ、けんな」
「ムぅ!飲みなさい!」
「得体のしれ、ないっ、テメェ……ッ」
痛みに耐える歯噛みも力が抜けていく。だから言わんこっちゃない。貧血状態に陥っている。
こういう時は専門家の言うことを聞くのが最善なのに、馬鹿じゃないの。
「………言うこと聞きなさい」
苦みと酸味のあるの薬を口に含み彼に飲ませる。
「ん…ッ」
「……はぁ、ちゃんと飲んで」
「なに…してッ」
「治療よ…黙ってて、まだ残ってるから」
残りの薬を飲ませるために再び口に含む。動きが鈍いため抵抗する彼を押さえつけるのなんて難しくない。
唇を合わせながら薬を流し込む。彼の傷が早く治りますように。解毒も終えて自由に動けるようになりますように。
「気分は…どう?」
「っは…犯されてるみてェなクソな気分だわ」
「…それだけ嫌み言えるなら大丈夫そうね」
この薬は後味が苦すぎるな。良薬口に苦しというけれど、飲みやすいようにしないとダメかな。
あとは…雨の時でも使える薬に改良して…
「ねぇ、族長さん…って寝てるし」
随分と体力を消耗していたのか、先程まで威嚇していたのに眠ってしまっている。眠っていれば綺麗な顔してるんだけどな。
マントやブーツ、装飾品を剥がしていく。結構重いもの身に付けていたのね。
「グゥゥ……」
「濡れちゃう…あぁ、もう雨上がったのね。あなたのご主人は寝ちゃってるけどもう大丈夫よ。朝まで起きないかもしれないから…ごはん食べて待とうか」
「ヴァッ!!!」
これが私たちの出会い。
*
*
あのドラゴンくんの怪我だったら…まぁ急いでいる様子ではなかったから重傷ではないはず。
簡単な傷薬を1キロでいっか。あとは竜人族のための鎮痛剤…包帯も50くらい持たせておこう。これだけあれば1,2週間は持つでしょ。
「おっも、」
「用意できたンか?」
「うん。薬を買ってくれるのは助かるんだけど…君たちすごく怪我するから心配だよ」
「シオンが手当てしてくれれば問題ねぇ」
「もう!放置するわよ!」
「初対面でも家に上げるが何言ってんだよ。あん時…俺がレイプする奴だったらどうすんだ」
「この森には悪意がある人は入れないから、カツキくんが悪い人じゃないってわかってた」
「こんなことする奴でもか?」
あの時と逆で今度は彼からのキス。
「竜人族って欲求不満なの?抑制効果のあるお薬も出しましょうか?」
「そんなんしたら、お前孕ませられねェだろ」
「……帰って」
「次はヤるからな」
「しません!!!」
悪い人じゃないのはわかっているんだけど…意地悪な人だよなぁ。
「シオン!!次は抱くぞ!!」
「帰れェ!!!」
最初に優しくしたのが間違いだった。
2019/07/11 5万hitリクエスト
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