お前が手の届く所にいるのが普通だった。
それが叶わないのは、少し物足りない。
「なぁ、この後自主練付き合ってくれ」
「いいよ。どこでする?」
「体育館予約してる。たぶんあそこなら爆豪が怒鳴り込んでくることもねぇだろ」
「あー…気を遣わせちゃってごめんね」
俺の自主練習に付き合ってもらうのは別に初めてじゃない。しかし、爆豪と付き合ってるのを見せつけられて誘い辛いのがあるのは事実だ。
「温度変化視る?」
「模擬戦してェ」
「先生居ないから派手に個性使えないだろうけど?」
「今日は間合いに入られたの想定するので組手で頼む。そっちの方が怪我させる心配ねぇし」
「ちょっと…単純な組手なら私の方が上なの忘れた?」
個性だけに頼らない戦い方はクラスで一番知っているんじゃないかと思う。成績も良いが…地頭がいいんだろうな。
いつかの放課後…静かに勉強する姿を見たことがあり、個性に甘んじることなく取り組む姿に好感を持った。
勉強を教えるのは下手くそだが、その回答方法を見ていたらなんとなく理解はできる。そういえば勉強の教え方を姉さんに教わってたな。
あ。
「轟くん、組手中に考え事してたらダメだよ」
「視たのか?」
「ううん。けど集中できてないのは解った」
左手を前に出した所を叩き落とされて、そのまま投げられ一回転する。多少勢いがあったから派手に前転して仰向けで寝転がれば、上から覗き込むグレーの瞳。
俺のよりも薄い眼が、逆光であるにも関わらず明るく射抜く。身長的に見上げることはねぇからなんか違和感がある、けど悪くはない。
今俺を見ている瞳は普段は爆豪ばっかりだよな、たぶん。
「ほら、起きて」
「わりィ」
「…やっぱり華奢に見えるけど筋肉ある、ッよね」
「まぁ、そりゃ鍛えてるし」
手を引かれて立ち上がれば、思いの外俺が引っ張る力が強かったようで少しよろける。
取った手は薄く指も細い。コスチュームの時はグローブを付けているからそんなに傷はついていない…それどころか、綺麗だと思う。
大の男を投げ飛ばすことができる手や身体じゃねぇはずなんだけどな。
「敵わねぇな」
「私は私の出来る範囲でやってるだけだよ」
「俺の出来るのは…完全に攻撃だからな。お前のは汎用性あってスゲェよ」
「私はね、轟くんの目標を忘れない所は敵わないなぁって思うよ」
「?」
「"なりたい自分"になれてるんじゃないかなって」
嗚呼、でも。
お前はいつだって俺をみていてくれていた。
それは周りにいる全員に対してだってわかっている。なのに、個性とか家じゃなく俺自身を見ていてくれているんだって思ったら…胸の奥が暖かくなった。
傍で支えるヒーローか…
彼女の心因的、精神的な面からアプローチして尚且つ一緒に戦える。お前と一緒にヒーローできたらいいのにな。
「轟くんは末っ子だから甘えてきそう。仮にサイドキックになっても書類整理とかはしてあげない」
「……おい、今のは視ただろ」
「さぁ、どうでしょ?」
リードヒーローには敵わねぇな。
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