レッドなフラペチーノ

10月半ば。

「勝くん、外出届出してデートしませんか」

「は?」


秋。それは食べ物が美味しい季節だ。お芋に栗、フルーツだったら葡萄とか梨、柿。沢山あるね。

そこで出てくるのが限定フレイバー。コンビニやカフェなどではそれらを楽しみにしている人たちが今か今かと待機していたりもする。

寮制になってから外出は気軽にできなくなった。特に一人では認められない場合がある。だからここは誰かを道連れにしなければ。


「ちょっと買い物したくてね…ついでにデートとか?」

「ついでが逆だろ……どこ行くんだよ」

「ショッピングモール…」

「めんどくさ」


若干の疑いの目を向けながらデートのお誘いを断ろうとする。こら、内心嬉しいくせに強がらないでよ。自分で言うのもあれだけど…私がデートに誘うことって凄く稀なんだから。


「じゃあ、いずと行こう。いずもオールマイトグッズ見に行きたいって言ってたからちょうどいいや」

「は?誰が行かねェつったよ」

「めんどくさいなぁ、もう」



 *



 *


数日後。


「あれー?二人して買い出しに行くの?」

「デートじゃんデート。寮じゃイチャイチャできないから外行くんだよきっと」

「服も気合い入ってる…お前らがデートとか想像つかねぇ」


いつもより少しだけおしゃれをした。カーキのペンシルスカートに、クリームのゆるめニット。高校生のデートなんてたかが知れてるけど、ちょっとくらい浮かれても良いじゃない。

私たちが付き合っているのはクラスの皆知っているけど、世間一般的な恋人らしいことはあまりしない。

皆の見えるところでは。


「で、実際はどうなん?」

「………デート行ってきます」

「ホテル行ってくるわ」

「バカ言わないで。買い物に行くの」


調子に乗った勝くんが、際どい発言をして腰を抱き玄関を出る。扉が閉まった途端に、驚愕と狼狽える声が聞こえた。

真に受けないで……



 *



ということでやって参りましたナウでヤング、じゃないショッピングモール。朝のランニングで体操服だけじゃ寒くなったので、ランニングウェアが欲しい。

これはもちろん嘘じゃない。冬用体操服はまだ着ないから羽織るものが欲しいのだ。

普段着でも大丈夫なやつが良いからと、勝くんの意見を聞きながらお店を回る。

二人方を並べて歩くのも、最近はインターン以外では無いに等しい。学校でもベッタリな訳じゃないからね。


「ボルドーとネイビーどっちが良いかな」

「私服で使うならボルドー。体操服と着て違和感ないのはネイビー。俺の好みはワインレッド、今の服にも合う」

「なるほど」


これは持論だけど、女の子の服選びに効率を求めるのは間違っている。勝くんは光己さんによりそれを教え込まれているらしいから、少し長くなっても飽きずに付き合ってくれる。

そして服のアドバイスも割りと的確。あー、この人センスの塊だったわ。

鏡の前で合わせてみても勝くんの言った通り、今の服に合わせるんだったらワインレッド…ボルドーじゃ重くなりすぎるね。ネイビーは今持っている服たちだとちょっと合わせづらい。


「ワインレッドにする」

「おう」


お会計を済ませて外に出て周囲を視てみる。秋の買い物はとても楽しい。10月って買い物が楽しくなる時期だって統計も出ているから間違いない。

重ね着できるし、デートにもちょうどよい時期。

受け取った紙袋は勝くんの右手にあった。ちなみに左手は私の右手と繋がれている。スマートすぎてこの人がクソの下水道煮込みな性格してるっての忘れかけちゃうなぁ。


「勝くん、ありがと」

「なにが」

「いろいろ」


繋がれた手から発汗と甘いニトロ。嬉しいのに隠そうとするのは可愛いらしい。

その他は特に買いたいものを決めていなかったのでとりあえず本屋に入ったり、お昼にいつもは食べないジャンクフード食べたり、勝くんの趣味の登山に関するお店に入ったり、キャンプ用品みたり。

そして本日の真の目的を達成すべく、ある場所へと向かう。


それはズバリ…


「ハロウィン限定フレーバー……」

「あ?」


星バック'sのハロウィン限定フレーバー。SNSで口コミを見つけてしまい無性に飲みたくなった。カロリーがおかしいのは知っているけれど…ヒーロー科だから気にしない!


「飲んで帰ろうよ」

「……はぁ」


眉間にシワが寄った溜め息。これは本当にめんどくさいって思ってるな?手を軽く引いてあげると嫌そうにこちらを見下ろす。

あ、また身長のびた?視線が上になるたびに彼との付き合いの長さを実感する。

いや、違うわ。今日は私がぺったんこの靴で彼がゴツめの靴立っただけじゃん。デートが久々過ぎて感覚鈍ったのかな。

そんなことを考えながら見つめていたら、また小さい溜め息が聞こえて星バック'sに入っていった。話が早くて助かる。


「ご注文お伺いしま〜す」

「ハロウィンレッドナ○トフラペチーノ1つ」

「ハロウィンダーク○イトフラペチーノ1つ」

「え、コーヒーじゃないんだ」

「っけ、お前がデートしようなんておかしいと思ったんだよ。どーせ限定飲みたかっただけだろうが」


あ、バレてた。別に”期間限定”という文字に弱いわけじゃない。そりゃ魅力は感じるけど、デートを言い訳に外出届を出したり、購入に走ることはしない。普段は。

しかし今回の星バック'sのハロウィン限定メニューは、私が好きなベリーを使っているのだ。

ラズベリー、ストロベリー、クランベリーの鮮やかなレッドベリーソース。アーモンド入りホワイトブラウニーのチョコ感はあるけれど、甘すぎず、ほどよい甘酸っぱさ。

ココアの方も甘いけれど、ココアのほろ苦さがベリーの甘酸っぱさをさらに引き立ててくれる……らしい!

今回はさすがに2つは注文できないから片方で我慢だな、と思っていたのに。


「それでもう1つの方頼んでくれるとか…勝くん良い彼氏になれるよ…」

「もうお前の彼氏だわ」

「そうでした」


できた品を受け取り店内の奥の席へ座る。ベリー系は卑怯だなぁ…そういえば、ちょっと前にマシュマロだかマカロンだか忘れたけどレッドとホワイトの限定メニューあったなぁ。あれもストロベリーだった。とうかフルーツ系は試しちゃうよねぇ。

緑のストローに口をつけ赤い蜜を堪能する。一口目にベリーが口内を充たした。勝くんのは全体的にビターで品の良い甘さがした。あ、寒い。


「どっちも美味しい…けどこの季節にフラペチーノは寒いね。氷少なめにしてもらえばよかったなぁ」

「さっき買ったパーカー着りゃいいだろ」

「ん。あと勝くん手貸して。人間カイロ」


さっきは繋いでいなかった勝くんの右手と私の左手。毎日のランニングで基礎体温が上がり、多少は冷え性が改善されたとはいえちょっと寒い。勝くんの手は暖かいなぁ。

目につくのはワイレッドやストロベリーの赤ばっかりだから、私は赤推しなのかと錯覚しそうになる。

コスチュームに装飾で赤はあるけれど私としては珍しいと思う。でも、もともと赤は好きだ。彼の瞳の色でもあるし。

今はスマホをいじっているから、テーブル越しに伏せた瞼ばっかりしか見えない。左人差し指でちょんちょんと気を引いてみれば、やっと赤がこっちを向く。


「ほんとは星バック'sの限定フレーバーが目的だったの」

「知っとったわ」

「でもね、勝くんと洋服見て、あなた好みの買えてよかった。またデートしようね」

「……ヤり殺したるわ、クソが」

「言葉が不穏」


方眉を吊り上げて笑う顔は敵っぽい。アイロニカルな顔がよく似合う男だ。

絡めていた手がイヤらしく撫でてきて、少しだけ笑ってしまった。

お礼は言葉じゃなくて身体で払えってさ。



 *



 *



「あれー?かっちゃん待ち受け環心じゃん。ベタボレかよ」

「あ”?見んな」

「ほぉーこれはデートに行ったときのやつですな」

「うっせェ」

「なんだかんだ言って好きだよなー環心のこと」

「チョー可愛いから待ち受けにするのも頷ける」

「黙れ」


そこには頬まで赤く染め、困ったようにハニカんで首をかしげる私がいたらしい。



2019/10/23
- 9 -
[*前] | [次#]

小説分岐

TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -