ヒーロー1年目、公安局。
仕事を一通り覚えた9月、いつもの捜査とは違った依頼がきた。
「商業用個性使用許可の申請願い、の効果検証」
「所謂治験ですね。男女各3名、年代別で効果のほどの調査をお願いします。場合によっては数ヵ月かかるらしいです」
治験ということは薬か何かか…しかしそれなら商業用ではなく、医療用として個性使用許可の申請をするはずだ。
数ヵ月の猶予期間があるものを担当させるのは変化を視ろということかしら。
「それは、人体に影響を及ぼす何かということですか?」
「はい。脱毛です」
「脱毛?」
「商業用でということなんですが……適任があまりいなくてですね。部分脱毛、全身脱毛、永久脱毛とコースが選べるそうなんですが……これ以上はセクハラと言われてしまうので、詳しくは打ち合わせで聞いてください」
「…何となく解りましたよ」
「理解が早くて助かります。効果と適正な値段設定もアドバイスしてみてください」
法外な値段ふっかけないようにマネジメントも手伝えと。何かあったらいけないから、一般人ではなく公安の人間が実験体になるらしいが…どっちにしろ危険じゃない。
まぁ、最終判断まで漕ぎ着けた人だから身辺調査は済んでいるんでしょう。打ち合わせの結果私の施術が行われるのは4日後になった。
*
*
4日後。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
「本日、全身永久脱毛の時間は90分を予定しています」
施術者の体力などを考えて日にちをずらして行うことになったのだが、私が行う”全身永久脱毛コース”が一番疲れるらしい。そして今回はサービスを受ける側の負担もみるため通常2回でするのを1回で行いわざと負荷をかける。
「もともとそんなに濃い方ではないんですね」
「そうですね。ただ黒髪なので…」
「結果がわかりやすいのでこちらとしても助かります」
20代後半の喋り口調が穏やかな女性がメインで、助手として同じ年代くらいの猫目がちな女性。スタッフの対応は今のところ好印象。
脱毛をするとのことだったのだが、個性の名前は”レーザー照射”といい毛母細胞を壊すことによっておよそ99%の脱毛を可能にする。ちなみに助手の彼女も似たような個性なんだとか。
個性を使うのに体力をかなり使うらしく施術時間は少し長めに設定。通常1回の施術で45分ほど。痛みは無し。肌が荒れている様子もない。
「公安の方って若い方もいらっしゃるんですね」
「キャリアを積んだ人が引き抜かれるって話を聞いたことがあったので、カルテを見たとき少し驚きました」
「一番ヒヨっ子ですよ。ただ、この全身脱毛は正直嬉しいですね。役得です」
日頃のムダ毛処理が要らなくなると思うととても嬉しい。ただVIOをするのは恥ずかしかったけど、相手はプロで見慣れているのか平気でしていた。
肌に光を照射するというよりは、全身を撫でて滑るようにして脱毛を行う。邪念も視られないから大丈夫かな。
「もしパートナーの方がいらっしゃるのでしたら感想を聞いてみてくださいね」
「……機会があれば…、、はい」
「肌がキメ細やかになってスベスベですよ。最初のうちは汗腺を刺激する影響で汗が出やすいですが肌が自然と順応していきます」
脱毛したあとの注意事項をいくつか説明を受け、完了するまで人形と化す。
90分ちょうどくらいで終わり普段は気にしない産毛まで綺麗に除去されていた。これが、全身脱毛…
「凄い、ツルツルする。肌も透明感が…」
「一応”永久”脱毛なので1週間ごとに経過報告をメールでお願いします」
「解りました。他のメンバーと話し合い、申請の結果はおよそ3か月後となります」
*
*
翌日、第6会議室。
「これは、許可出して良いんじゃないか?経営基盤も問題なし」
「私がしたの低刺激タイプであと4回あるからそれが終わってからよ」
「俺のアゴ髭さ、すっかり綺麗になっちゃって…娘にスリスリしたらいつもは凄く嫌がるのにむしろ触ってくるんだよ。定期的に行くよこんなん…」
「俺の剛毛な脛毛に虫が絡まってた頃が懐かしい」
「スタッフたちの印象も良かったわね。内情は?」
「視た感じは問題なしです。悪用する感じもないですね」
脱毛の施術を受けた公安の人間はすっかり許可を出す気満々だ。かくいう私もかなり気に入っていて、同期におすすめしようかと思っている。
「ねぇ、全身コースってどうだった?」
「時間は長かったですけど、終わった瞬間から効果が実感できて…感動しましたね」
「私も次はそれする!値段的には?」
「個人の負担の割には価格が安すぎる上に、競合他社からのクレーム来そうなんですよね。だからもう少し値段は上げるべきだと思います」
そして、4ヶ月後。個性を使った脱毛サロンは予約が8ヶ月待ちになるほどの盛況ぶりとなったのであった。
*
*
脱毛から2週間後、自宅。
「あれ?何かあった?」
「用事がなきゃ彼女の家に来ちゃいかんのかよ」
「いや、いつもは前もって言うからさ」
「大阪からの直帰でこっちきた」
だから荷物が多かったのね。約1ヶ月間の関西出張は、ジーニストが行ってこいと丸投げした顔合わせとチームアップだったらしい。
「今度うちの事務所に入った新人です」って紹介することが多いんだけど、崖から落とされたライオンの子どものような扱いをされている。学生時代から顔が知られている彼だから、今更感はあるけどね。
「ご飯は?簡単なものだったら作れるけど」
「疲れたから寝る……つーかお前なんつー格好しとんだ」
「お風呂上がりで暑いんだもん」
「ふーん……?何か違ぇな」
「何がよ」
「なんか」
疲れたからとソファーへと身を預ける勝くんに、ベッドを使えと言うけれど既に夢の中へと旅立ったみたい。
そんなに疲れているなら家に帰ってゆっくりすれば良いのに。任務で無傷だと言っていた身体だけれど、疲労はどうしても出てしまう。
青年になった頬は少しチクッとして、この人でも髭が伸びるんだと知る。色素が薄いし毛深い方ではないから目視するのはなかなか難しい。あ、よく見れば隈が…相当疲れてるじゃん。
2人掛け用のソファーじゃ狭いだろうからやっぱりベッドに移動してもらおう。
「勝くん、寝るならベッド」
「…ん、シオン?…寝とったンか……シャワーいく」
軽く体を揺すり起こす。足取りは重いがちゃんとバスルームに向かったらしい。バスルームで倒れなきゃ良いけど。
勝くんが出るまでに脱毛の経過報告メール作っとこう。明日は休みだけど今日のうちにやってしまった方がいいだろう。
手、腕、腹、脚、背中と項は触った感じチクチクしない。VIOもお恥ずかしながらツルツル。痛みなし。肌の赤み肌荒れも見えるところはない。背中と項は見えないけど……。
「何やっとんだ」
「へ?スマホで背中撮ろうとしてる。お風呂早かったねぇ…へへ」
背中の写真を撮ろうとしたところにシャワーを終えた勝くん。なかなか無様な姿を晒してしまってる自信はあるぞ。誤魔化してみても効果はない。
「お前、エステか何か行ったンか?」
「行ってない。脱毛はしたけど」
「脱毛?」
「個性の商業登録で被検体になったのよ。それで報告書作っててね」
「ふぅん」
自分で聞いといてその薄い反応はないでしょうが。私が報告書を作っているのを横からジッと見つめてる。眠たげな視線が目障りだ。
「久々に会ったからシオンの肌の色忘れたのかと思った」
「そんなに違う?」
「夏なのに前より白い」
「他には?」
「…柔らかそう」
分厚い手が二の腕を掴み作業を中断させる。薄着をしているから彼の体温がダイレクトに伝わってくる。その手が脇に入り込み指を動かす。
くすぐられているようで嫌な感じしかしないけど我慢…第三者の感想も含めて報告書作りたいから、これは必要なことだ。そう言い聞かせながらも、表情が険しくなっていく気がする。
「相変わらず柔ぇな」
「ほんっと失礼よね」
「したのは全身か?」
「うん。あ、項の写真撮って。特に背中とか項は予約が多いらしいからしっかり見ときたいの」
「俺がレビューしてやるよ」
ん?レビューするのは私何ですが?
先程までソファーで寝ていた姿はどこへやら、報告書を作るために開いていたラップトップは閉じられてしまった。
脇に入り込んでいた手は、片手から両脇に侵入して私を持ち上げる。ベッドに押し倒され動けなくなった私の全身をくまなく撫で上げる。
何で、寝ないの!??
「ちょっ……寝不足疲労マンは寝てください〜何で勃ってるのよ、」
「疲れマラだわ。種族維持本能舐めんなよ」
「本能しまってください〜疲れの勃起と興奮の勃起は別物です〜」
「女が勃起とか言うなよ。レビューしてやるっつてんだろ。だから全部出せ、レビュー必要だろ」
「何のよ!?」
「触り心地とか、舐めた感じとか?」
舐め回されたのは言うまでもない。
- 8 -
[*前] | [次#]
小説分岐
TOP