放課後、裏庭。
「どうしよ……」
「どうするもなにも…今出たらバレる。気まずい」
「だよねー……かっちゃん機嫌悪そうだし」
いずと二人で草陰に隠れる。
「た、体育祭の時から好きでした!付き合ってくださいッ!」
「あ"?ふざけんな死ね」
ああ、なんてお口の悪いこと…。今に始まったことじゃないけど死ねはないでしょ、もぉ。
私はいずと訓練をしていただけなのに。女の子が来てワン・フォー・オールがバレないようにしなきゃ!って隠れたのがいけなかった。
今思えば普通に自主練してただけなんだから隠れる必要性はどこにも感じられない。
突如始まった女子生徒による告白。去年の体育祭で好きになったとか、言うつもりはなかったけど抑えられなかったとか、インターンの様子もチェックしてるとか…かなり熱烈な告白だ。
その告白相手は私たちの幼馴染みで、私の恋人である爆豪勝己。
「えっと…私はサポート科2年なんだけど…、爆豪くん用にアイテム考えてて…これも是非使ってほしいなって……」
「ンなこと聞いてねぇわ。モブに興味はねぇ」
知らない人をとりあえずモブという癖は未だになくならない。他の人に興味持つことを覚えようよ。せっかく格好いいヒーローになりつつあるのに。
「かっちゃんアンチのビジョンが見える」
「右に同じく。女の子に優しくしなきゃ」
「恋人にはむちゃくちゃ優しいのにね」
「むぅ……」
いずはこっちを見ながら、勝くんの優しさは私にだけ向けられていることを報告する。そんなこと言われなくても私が一番実感しています。
言葉にすることは少ないけれど、言動によってそれを感じることが出来る。ただ優しいだけじゃなくて、私のヒーローとしての行動もちゃんと受け入れてくれる辺りが勝くんらしい。
テレた私を冷やかすいずに肘を横腹に入れる。さぞ痛いだろ。痛いところ狙ってやったから間違いない。くぐもった声は無視する。
「つ、付き合っている人とか!いるんですか!?いないんだったら私が爆豪くんを…そのサポート科の知識使って「間に合ってる」……え、」
立ち去る勝くんに最後の勇気を振り絞って声をかけた女子生徒。しかし、勝くんの一言で勢いをなくしてしまった。
「だから、間に合っとンだよ。そういうのは」
「彼女…ですか?」
「お前には関係ねェだろ……俺は、アイツしか要らねぇんだよ………、……」
遂に去って行った勝くんと泣き出した女子生徒。そしてどこからともなく現れた彼女の友人たち。
泣いている子を慰めるようにハンカチを差し出して、勝くんが去って行った方向を見つめる。
「ん〜ッ、フラれるのわかってたけど悲しいよぉ」
「怖がらずにちゃんと言えて偉いよ」
「それにしても間に合ってるって彼女だよねぇ」
「頭も良い、顔や筋肉も良いし個性も強くて将来有望。ただ性格や言葉遣い、目付きに難あり。彼を懐柔しちゃう相手って誰よ…」
突発的に開かれた女子会で好き勝手言われてるけど概ね合っているので否定しようがない。
「グズッ…わっがんない……でも”アイツしか要らない”って言うとき…スゴく、優しい顔してた」
「あー確かに……」
「あと、最後に小さい声でね……”墓場まで任せてる”って…。あれ相当好きだよきっとぉ〜」
「自分で言って泣かないの!ほら寮に帰ろ!」
彼女たちが撤退してから静かになった。聞こえるのは主に鳥の鳴き声と草木の揺れる音。
「墓場まで任せているそうですが…かっちゃん相当好きだよね」
「……うるさいなぁ!知ってるよ!!」
あの子が言わなくても唇の動きで何て言っているか解った。たぶん勝くんはこちらには気づいてない。意識が私たちに微塵も向いていなかったから。
だからこそ、ああいう……私がいないところでも私を想っていることを知って恥ずかしくなった。
「いず、寮に戻るのちょっと待って」
「そうだね。今の顔見られたら大変だ………好きでたまらないって顔してるよ」
「だから、うるさいってばァ」
表情が崩れて戻らない。
私たちが寮に戻れたのは、それから15分も経過してからだった。
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